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「800字文学館」

ベルギーの皇太子殿下(平成の天皇陛下)

都甲 昌利

 今上天皇が皇太子浩宮徳仁親王へ譲位される事となり、御退位の日も近い。  五月から元号が令和となる。日々マスコミの報道が激しい。そんな中、ブラッセル駐在時代(一九八〇年~一九八五年)の出来事が甦ってきた。
 まだ天皇が皇太子であられた頃、美智子妃殿下を伴われ日航特別機で合計三回、ベルギーをご訪問されたのである。
 一九八一年「英国チャールズ皇太子殿下結婚式・ご参列」のベルギーお立ち寄りが第一回。二回目は一九八三年欧州・アフリカ表敬訪問でのベルギーお立ち寄り。一九八四年二月から三月にかけて、昭和天皇のご名代としてザイール、セネガルへ国際親善の為の御訪問途中、ベルギーに立ち寄られたのが三回目である。
 元来、日本とベルギーは一五〇年の友好関係にある。日本の皇室とベルギー王室は非常に親密な関係だそうで、昭和天皇が崩御された時も真っ先に弔問されたのは、ボードワン国王陛下御夫妻であったと聞く。
 第三回目のご訪問の際、大使公邸で大使主催の歓迎レセプションがあり、その席上、皇太子殿下からにこやかにお声をかけて戴いた。「少し心配しましたが、無事着陸しましたね」
 これはブラッセルの天候が悪く着陸が危ぶまれていた事を意味する。しかし、運よく晴れ間が出て着陸出来たことを述べられたお言葉だ。私は殿下ご夫妻にご心配をおかけしたことで恐縮したが、同時に、地上で祈るように待ち受けていた私共航空・空港関係者を労って下さったお心遣いに胸が熱くなった。
 公邸には、当時オックスフォード大学・マートン校にご修学中の浩宮様もロンドンから駆け付けられて、家族的で和やかな雰囲気が漂っていた。
 ご出発の時、タラップの下で美智子妃殿下から「もう、お別れね。お元気で」とお声を掛けられた宮様は深く頷かれた。いつの世にも通じる、貧富の差や身分を超越した普遍的な家族愛に、一瞬触れた思いがした。
 両殿下をお乗せした特別機はザイールに向け無事出発した。

参考資料・宮内庁ホームページ

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