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「800字文学館」

有人宇宙開発にもの申す

稲宮 健一

 先月用事があり、久しぶりに筑波宇宙センターを訪れた。展示室の入口の通路両側に世界と日本の宇宙飛行士が一緒に写っている沢山のパネルが掲げられていた。ロケットや人工衛星の展示を見る前に有人宇宙への力の入れようが分かる。

 振り返ると、ロシアのツオルコフスキーが一九〇三年宇宙への飛翔を理論的に導き出し、米国のゴダードが一九二七年液体ロケットを打ち上げた。その影響でドイツでは一九二〇年代、オバースやフォン・ブラウンなどが将来の宇宙旅行の夢を語った。ナチス時代、ロケットは弾丸に転用された。冷戦時代、陣営の国威誇示のため有人宇宙と月到達が軍人の支援で行われた。西側の団結と優位を狙って、国際宇宙ステーション(ISS)が構築された。反対意見があったが、莫大な資金を使って実現した。ISSの完成後、ソ連の崩壊があり、いまやロシアはISSの重要な仲間となった。中国がこの中に入ってないのは残念だ。

 パネルは若い人に宇宙飛行士への願望を駆り立てる。しかし、宇宙空間は決して人間の生存に適した空間ではない。ISSから出て船外活動するとき大げさな宇宙服を着用しなければ一瞬たりとも活動できない。風潮ではISSの次は月、さらには火星への有人飛行や探査の筋書を聞いてる。本来この生存空間でない所で生きて活動するため、膨大な資金が必要だ。なぜ、発想の転換ができないのか。

 今、ロボットと仮想現実が進んでいる。巨大な重機を遠方の市街地にある部室で、あたかも操作員が現場で作業するのと変わらない制御ができる。一番の要は5G時代では三次元の最精画像がゴーグルを通して体感でき、かつ重機が岩石を触る感覚が人の手で感じ取れる。即ち、宇宙船の中の疑似人間が行う宇宙活動、あるいは宇宙旅行を皮膚感覚で平服の地上人間が感じ取れる。多少時間遅れがあるが、高価な宇宙服や、宇宙食を限られた人間に用意するより、ロボコンの延長上の方が大多数に受けいれやすい。

ISS:International Space Station

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