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「800字文学館」

お札を新しく

野瀬 隆平

 新札を発行するという。新しい一万円札には渋沢栄一の肖像画が使われる。五千円札に起用される津田梅子については、その顔が実際の写真の左右を逆にしていると批判する人もいて、世間の注目を浴びた。
 デザインなど、大した問題ではないと思うが、どうしても変えて欲しい所が一つだけある。それは、お札の発行元だ。お札には全て「日本銀行券」と書いてあり、更に発行元が「日本銀行」であると明記されている。この日本銀行を削り、「日本国」として欲しいのである。ちなみに、硬貨はすべて「日本国」となっている。同じお金なのに、片や日本銀行が、もう一つは日本国、即ち政府が発行している。

 国債の発行残高が一千兆円を超えており、そのうちに国の財政は破たんすると心配する人がいる。しかし、その国債は実質的には日銀に買い取ってもらっているので、日銀も政府と一体だと考えれば、大きな問題ではないようにも思える。ただ、どうしても国が「借金」をしているという感覚が残ってしまう。
 仮に、政府がお札を発行すれば、借金という形をとることなく資金を生み出せる。これは、何も突拍子もない考え方ではない。国が享受できる「通貨発行益」である。歴史的に「シニョレッジ」と呼ばれ、領主さまの持つ特権だった時代もあった。
 確かに、政府が通貨を発行できるようにすると、インフレになる危険があり、独立した機関である中央銀行がお札を発行するようにしたのはこの為である。しかし、日本の現状からインフレのリスクは小さく、制御は可能だと考える。

 金融緩和によって、民間銀行にはお金が流れやすくなった。ただ、それを借りる人がいない。切実にお金を必要としている人は多いが、返す当ても無いのに借金など出来ない。この様な人たちに社会保障の一環としてお金を配る、その財源として政府紙幣を使えというのである。消費税など国民から徴収した税金を使うのは、お金が往復しただけで、実質的に支給したことにはならない。

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