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「800字文学館」

「平成最後の」つれづれ

斉藤 征雄

 朝五時、いつも通り目覚めた。顔を洗い新聞を取りに行く。カミさんはすでに起きていてなにかごそごそやっている。 パソコンのメールをチェックして、さて今日は外出の予定もないし何をするか。外は春の雨である。
 新聞を広げると、今日天皇が退位とのこと。もちろん認識してはいたが、そうか今日は平成の最後の日なのだと改めて思った。
 テレビをつける。NHKは終日「ゆく時代くる時代」特集。ナニコレ、年末の「ゆく年くる年」の時代版か。内容はすべて「平成最後の〇〇」、センスがイマイチ、「平成最後の晩ごはんレシピ」まで教えてくれる。
 街の声にも「今日は平成の大晦日」というのがあった。なるほどとは思ったが、日本語の乱れも甚だしい。

 夕方五時、「退位礼正殿の儀(たいいれいせいでんのぎ)」。新天皇の即位は明日なので、今日はあくまで退位の儀式だけ。退位は皇室典範退位特例法に基づくもので譲位ではないとする政府が、退位と即位を分けた苦肉の策とか。
 天皇の最後のおことばがあり十分で終わった。おことばは簡潔でよかった。
 会場には三種の神器のうち剣と勾玉が置かれていた。しかし剣は壇ノ浦で安徳天皇と一緒に海の底に沈んだのでは?と思いネットで調べたら、そうだとしても神器は誰も見てはいけないものなのだからそれでよいのだ、ということらしい。

 NHKが調べたところによると、国民の今日の晩ごはんはお祝いなので一位が寿司で二位が焼肉らしい。寿司でも焼肉でもないわが家の夕食を食べながら、天皇さまもこれで肩の荷を下ろして、今夜は一杯飲んであとは風呂に入って寝るだけだなと考えていたら、儀式が終わった後は侍従たちを慰労するお仕事があるそうな。

 かつて天皇は、大日本帝国の万古不易の国体の中心に据えられ神格化された。それに比べれば平成天皇は国民の象徴として国民に近い存在の形をつくるに努力し、その成果を残された。現役を退いた者同士、後はゆっくり余生を楽しんでもらいたいと思う。

若葉して人にそれぞれ新時代   まさお

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