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「800字文学館」

私利私欲の暴走(その一)

大津 隆文

 この世はお金がなくては生きていけない、しかもお金には多々益々弁ずという面がある。生きるため人生を楽しむため経済的利益を追求するというのは人の本能的欲求といえる。利益追求の切磋琢磨は世の中の発展をもたらす原動力でもある。
 ちなみに、共産主義の人間観は、この私利私欲の本源性を認めない点に致命的な甘さがあったのではなかろうか。他方、ウォール街では勝ち誇ったかのように「グリード(貪欲) イズ グッド」と公言されたりした。
 しかし、私利私欲の追及には、日産自動車ゴーン元会長の衝撃的な不祥事のように、時には行き過ぎ、暴走が生じ、放置すれば組織、社会が蝕まれる。これを防止するため次の三点を指摘したい。
  まず基本は暴走を防ぐルールの設定であり、組織内の相互チェック、ガバナンス体制をしっかり築くことである。これまでも検討と具体化が随分積み重ねられているが、この道に完璧はなく抜け穴探しが常に試みられるので、見直し、強化を忘れてはならない。
  次にはルールを補強する社会の評価である。人間の価値はその人の得た経済的な成果だけではない。報酬は低くても社会の一隅を照らす仕事に黙々と取り組んでいる人もいる。人生は金だけではない。むしろ剥き出しの貪欲さは蔑視される文化があってもよい。
  年間所得ベストテン、金持ちベストテン等が世間の注目を集めるが、名前の挙がったのはその個人の才能、努力の成果であると同時に、支えてくれた無数の存在があったからでもあり、「金持ちの社会的責任」を大いに認識してほしい。
 最後の砦は個人の倫理観である。私達世代が子供の頃は皆空きっ腹を抱えていたが、「武士は食わねど高楊枝」と言われたことが耳に残っている。強調したいのは、人間教育、道徳教育の重要性である。
 困難に打ち克って成功し、社会に貢献した偉人達に学び、あるいは「ならぬことはならぬものです」「天知る地知る我知る人知る」等これまで先人が生み出してきた教えを是非受け継いでもらいたい。

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