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「800字文学館」

ヨルダン・イスラエルの旅 ~死海~

斉藤 征雄

 成田を夜発ってカタールのドーハを経由、時差6時間を引いて昼頃アンマンへ着いた。そのままバスに乗り260キロを南下して初日はペトラ泊。
 翌日のペトラ遺跡を皮切りに一週間、ヨルダン・イスラエルを旅した。地域が地域だけにやや緊張して臨んだツアーだったが無事予定通り周った。そのうち死海とエルサレムの印象について二回に亘って報告します。

 死海は、ヨルダンとイスラエルの国境にある南北80キロ東西10キロの湖である。モーゼの終焉の地といわれるネボ山(800m)から眺望したあと湖畔へ降りた。
 地形的には、東アフリカを分断する大地溝帯が紅海からアカバ湾を通ってヨルダン渓谷へつながり最北端で死海を形成しているという。
 湖は海抜マイナス420m。ヨルダン川から流れ込む水は行き場がなく蒸発するしかないので塩分濃度が濃くなり約30%の飽和状態である。だから死海の水の比重(1.33)は人間の比重(約1.0)よりかなり高いので、人間は沈まない。

 ほんとかな?と思って恐る恐る入ってみる。腰のあたりまで水につかるとフワフワする。そして身体を少し傾けると突然尻からプカリと水面に浮いた。慌てて上向きになる。そうしないと顔が水について水を飲んでしまいそうになる。飲むと内臓が化学熱傷を起こして死に至る場合もあるらしい。
 はじめは両手で水をかいたり叩いたりしてバランスをとったが、少し慣れて身体の力を抜くと浮いた状態を続けることができるようになった。胸から上は完全に水の外である。空は青く風は爽やかで実に快適。観光写真には、浮きながら本を読んでいる美女が写っているがそれもあながち嘘ではない気がしてくる。

 手で水を舐めてみると、しょっぱいというよりは苦い味がした。マグネシウムやミネラルの混合物(いわゆる「にがり」)が多く含まれているという。
 夕食のとき、うがい代わりに頼んだ缶ビールが10ドルもしたのには、苦々しい気持ちが加わって口がますます苦く感じられた。

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