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「800字文学館」

お金の正体

野瀬 隆平

 近ごろお金についての話をする機会が多い。
 アメリカだけでなく、日本でも「現代貨幣理論」(MMT)が話題になり始めたからである。
 最初に、「お金は使ったら減るか?」と問いかける。ほとんどの人は、何故そんな質問をするのかと怪訝な顔をする。個人の観点から見るか、社会全体の中で捉えるか、視点の置き方によって認識が違ってくることを、先ずは知る必要があるからである。
 更に話を進めて、ではどんな時にお金は増えるのかと問う。印刷局で紙幣がどんどん造られているから増えるのだと考えるかもしれない。けれども、新しく出来たお札を理由もなくただで貰える人はどこにもいない。
 誰かが銀行から借りて初めて、お金は増えるのだ。経済を勉強した人には常識となっている「信用創造」である。英語ではズバリMoney Creationというのに、何故か日本語ではこんな難しい言葉になっている。

 「お金」の本質が解りにくいのはどうしてか。一般に目に見え形のあるものは理解しやすいが、抽象的な概念は頭に入りにくい。金貨というそれ自体価値を持つ有形物であれば解りやすいが、金に交換できる兌換紙幣となり、さらに金の裏付けのない単なる紙切れともいえる不換紙幣となった。現代ではキャッシュレス決済に見られるようにお金のデジタル化が進んで、益々形に見えない抽象的な概念、データとなってきている。他国に比べてより現金を多用している日本人はとりわけ、抽象的な概念としての現代のお金を理解しにくいのではなかろうか。

 報道によると、家計の金融資産が増加し続けて、過去最高の1835兆円に達したという。一般に言われるように、国債の原資がこの金融資産であるとするならば、なぜ家計の資産が増え続けるのか、これまでの理論ではうまく説明できない。
 仮に、日本政府がこれまで国債の代わりに政府紙幣を発行していたら、膨大な借金を抱えることにはなっていなかった。その代償として、云われているよう、にインフレになっていただろうか。

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