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「800字文学館」

宮本さんのミニオペラ

川口 ひろ子

 「モーツァルトな登場人物たち」と題するミニオペラを鑑賞した。企画、構成、演出、歌唱とトークの5役をこなすのはバリトン歌手の宮本益光さん。

 「携帯消してね」「いびき駄目よ」などと笑いを取ってから開幕だ。本格的なオペラ公演ではなく、2人のソプラノと1人のバリトンがモーツァルトのオペラから有名アリアを抜粋して歌う。前半は「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」からの独唱と重唱、後半は「魔笛」から夜の女王の独唱と、人気者パパゲーノが念願の恋人を見つけて歓喜する終幕の寸劇が上演された。
 装置なし、ピアノ伴奏の略式上演ながら、3人の若手正統派歌手のレベルは高い。宮本さんの恋歌の魅惑的な響き、鵜木絵里さんの若い小間使いのずる賢い演技、そして針生美智子さんの夜の女王のアリアの抜群の迫力、モーツァルトの魅力満載だ。
 「魔笛」で歌われるアリア「地獄の復讐が……」は自分の娘に父親(自分の夫)をこの短刀で殺せと命令する恐ろしい歌だ。超絶技巧を駆使したコロラトゥーラの響きは無限に伸びてこの世のものとは思えぬ華麗さで私たちを酔わせる。「どうだ!」とばかり客席を睨んだ後、灰色の衣装の裾を翻してゆっくりと退場する針生さんの姿は自信に満ちていた。

 アリアは満喫したが、大雑把な構成、演出には不満が多い。各アリアの間にピアノの小品などが追加演奏されるが、有名曲を適当にははめ込みましたという荒っぽさは、充実の歌唱面に比べていかにも貧弱で淋しい。
 老若男女、万人が満足の舞台を造るのは無理だ。若者向けの教育目的の抜粋版なのか、マニア向けの宮本さんの拘りを披露する場なのか、目的を2つに分けた方が解りやすいのではないか。「モーツァルトな登場人物たち」という薄味でぼんやりした日本語も好みではない。

 才能に恵まれ西欧の古典芸能の再現という難しく厄介な職業を選んだ若手の皆さん、今後も最高のオペラ歌手になるべく精進してください。

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