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「800字文学館」

ヨルダン・イスラエルの旅 ~エルサレム~

斉藤 征雄

 エルサレム市内観光に先立ち、先ず近郊の遺跡などを見学した。
 その多くはいわゆるヨルダン川西岸のパレスチナ自治区にあるので、観光地とは言え身構えた気持ちになる。パレスチナの独立を日本政府は承認していない。自治区は高い壁で仕切られ出入りの警備が厳しかった。

 エルサレムは、ユダヤ人の祖先アブラハムが神から約束された土地カナンにあり古代ユダ王国の首都でもあった。最盛期ソロモン王はここに神殿を建造したが現在その外壁が残っていてユダヤ教徒の嘆きの壁となっている。
 キリスト教徒にとっては、イエスが十字架にかけられた場所ゴルゴタの丘がある。十字架を背負わされて歩いた道をヴィア・ドロローサという。
 イスラム教徒にとっては、ムハンマドが一夜で天のアラーの神の前に至り地上に戻った聖地とされる。岩のドームと呼ばれる神殿がある。
 エルサレムは、紀元後ローマに支配され、のちビザンチン帝国、そしてイスラム教勃興後20世紀まではイスラムに支配されてきた。ユダヤ人がイスラエルを建国したのは一九四八年、その後のイスラム圏諸国との対立は言うに及ばない。

 エルサレムを、私は根拠もなく平坦な街と思っていたが、ずいぶん起伏が多い、というよりは丘が集まったような街だった。それを徒歩で登ったり下りたりして観光するから疲れる。
 嘆きの壁は男女でエリアが別れるが、ユダヤ教徒に限らず誰でも入れた。祈ったり願い事を紙に書いて壁の隙間に差し込んだりする。わがツアーの仲間も熱心に願い事を書いて祈った。多神教の日本人らしいとは思ったが、にわかユダヤ教徒をユダヤ人はどのように感じただろうか。
 ヴィア・ドロローサには様々な店が立ち並び観光客で混雑していた。処刑前に鞭打ちの刑を受けて疲労困憊したイエスが十字架の重さに耐えかねて倒れた場所などが案内された。丸一日に及ぶ市内観光の最後の方だったので、私も疲労困憊して説明を聞きながらめまいがして倒れそうになった。
 歴史を学ぶ旅も楽ではない。

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