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「800字文学館」

大徳寺芳春院再訪

塚田 實

 6月半ば、大徳寺芳(ほう)春院(しゅんいん)秋吉則州住職を再び訪問させていただいた。前回と同じように抹茶を点てて頂き、暫く歓談した。梅雨入り前の爽やかな朝だった。

『悠遊二十六号』の表紙絵として、方丈前の「花岸庭」を描かせていただいたので、話は自然に庭の話になった。以前は一面桔梗の花が咲く庭だったらしいが、ご住職は禅寺らしく枯山水の庭にしたいと、常々考えておられたそうだ。そして平成元年庭の造り替えに取り掛かった。作庭は足立美術館の庭を作ったことでも有名な、昭和の小堀遠州といわれる中根金作氏に依頼した。中根氏の最初の案はご住職の考えと少し違ったらしい。禅寺の庭ではあるが、法事もあれば人の出入りもあるので、現場の事情に配慮した庭にしてほしいと中根氏に申し入れた。
 結局中根氏とご住職は方丈の座敷に座り、二人で職人たちに石や植木の配置を現場で次々と指示し決定していったという。そして、「花岸庭」ができた。中根氏も完成した庭に大満足だったという。

 帰りがけに、ご住職から「生死(しょうじ)事大(じだい)」と「心外(しんげ)無別法(むべっぽう)」の2枚の色紙をいただいた。禅語で「今を一生懸命生きよ」と「幸不幸はすべて自分の心が創り出す」の意だと後で学んだ。

 ご住職は別の予定があるので、「もうお寺の中は十分ご存知でしょうから、お一人でゆっくりお参りしていってください」とその場を辞された。懐かしい庭をじっくりと眺め、庫裏から出ると、「丁度これから本坊に出仕するので、そこまでご一緒しましょう」と誘っていただいた。ご住職は今年の4月から大徳寺宗務総長に就任されている。一緒に外に出ると、大きな樹に白い椿のような花が一杯咲いている。「これはナツツバキです」。樹皮はサルスベリのようにツルツルしている。別名娑(しゃ)羅樹(らのき)ともいうが、インドのものとは別種だそうだ。朝に開花し、夕方には落花すると聞いた。昨日落ちた花を踏まないように、そっと歩いて本坊方丈に向かった。

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