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「800字文学館」

婦唱夫随

首藤 静夫

 会社勤めの40年、上司の指示にも部下からの報告も「分かりました」「分かった」
 そんなこんなで「分かった」癖が身につき、家でも妻に「分かった」

 ユニットバスを更新したいと妻が言いだした。築22年の家だが、転勤で使わなかった期間もかなりあるから家屋もバスもまだきれいだ。バスは5年くらい持つと思うのだが妻は更新キャンペーンに乗りたいという。僕は現役時代の一時期、ユニットバスメーカーに勤めていた。今のバスはその会社の商品で愛着もある。しかし悋気な妻が珍しく言うし、言い争っても勝てないだろう。しぶしぶ「分かった」
 早速営業担当が打ち合わせに訪れ、夫婦で応対した。何かの拍子にバスメーカーに勤務経験のあることが先方に知れた。それで契約と工事着手の前は、ご主人、ご主人と営業も工事担当も僕にきいてきた。
 ところが工事が始まり、部品の取り付けなど細部に進むにつれ僕に知識と知恵のないのが露見した。一方、妻は取説が愛読書というくらいだからそれを片手にいちいちチェック、気がつけば「奥さん、これは?」「奥さん、ここは」となった。用のない僕はパソコンの前で不要の文章を打っている。
 新しい風呂は気持ちがいいが、「前のもよかったなあ・・・・・・」

 ある日妻が葬祭互助会に30万円で入ると言い始めた。夫婦が健康な時に加入したほうがよいという。
「分かった。俺が死んだあとのことだから30万円でも300万円でも好きにしたら」
 それから数日、帰宅したらその互助会の営業担当が来ていた。二人で談笑している。妻が、
「一口10万円で二口(二人分)にしたわ。安いコースがあるんですって」
「・・・・・・」
 隣室で用事をしていると二人の声が聞こえる。
「お墓はあるんですか? どうなさるんですか」
「ないけど多摩川がすぐそこだし、改修で流れもよくなったからそこに撒くわ」
 おいおい、乱暴なことをいって。お前のところはどういう夫婦なんだと閻魔様に聞かれたらどう答えるんだよ。

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