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「800字文学館」

私利私欲の暴走(その三)

大津 隆文

 世界的に貧富の格差が拡大している。アメリカでの資産の分布をみると上位一%が下位九十%より大きな資産を持ち、また、経営トップ(CEO)の平均所得は一般社員の三百四十三倍という。
 こうした傾向はアメリカだけでなく多くの国で深刻化しているようだ。その背景には利益追求を目指す企業活動の行き過ぎがあり、その対応としては次の視点を指摘したい。
 まず経済はグローバル化している一方政治は昔通りの国単位という構造的問題があり、このギャップの克服に努める必要がある。
 例えば多国間にわたって活動する企業や個人の所得への課税である。この面では各国間での情報共有等が図られているほか、法人税率の最低水準の設定やIT企業への課税について国際的なルール設定が検討されている。グローバルな企業活動に対応するため各方面で国際協調を強化していかねばならない。
 次に市場経済は基本的に甲乙両者の契約関係によって成立しているが、現実は甲(大企業)が乙(中小企業、労働者)に対し圧倒的に優位に立っている。両者の実質的な平等化を図る必要がある。
 そのために取引の公正確保を図る公的な介入(独占禁止法の適用等)、労使関係への介入(非正規職の待遇向上、最低賃金の引上げ等)が強化されなければならない。
 企業は一部のハゲタカ株主や強欲な経営者ものではなく幅広い利害関係者(従業員、顧客、取引先、社会等)の公器である。東証の環境・社会・企業統治(ESG)を重視する「企業統治指針」や、経団連も推奨している国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」への取り組みの強化が求められる。
 最後に、人が社会で活躍するためには教育が何よりも重要である。本人の希望や能力ではなく親の貧富によって教育機会が左右され、貧富が再生産される社会であってはならない。社会への入り口では誰にも実質的に平等なチャンスがあり、結果的に脱落者が出ても見捨てないという一体感のある社会の実現を夢見たい。

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