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「800字文学館」

全英女子オープンより想う

安藤 晃二

 先週、ゴルフチャンネルをつけたまま片付け仕事をしていた。全英女子オープン、常に首位に立つ日本人選手がいる。終には優勝の快挙を成し遂げた、『微笑みのシンデレラ』こと澁野選手であったが、その時は未だ二日目、解説のプロも冷静でむしろ辛口風、「前畑ガンバレ!」張りの熱狂はない。リンクスとは違う緑豊かなコースに興味を覚える。ミルトンキーンズ(MK)にあるウォバーンGCがその舞台だという。この二つの地名が昔を連想させた。

 ミルトンキーンズは60年代に建設が始まった、所謂ニュータウンの魁と言われる町である。ロンドンの北80キロ、人口2万の村々の点在する地域を開発し、企業ビル、行政施設、大学、研究機関、商業施設、文化・スポーツ施設、職住近接の一大住宅群等が、英国の伝統的都市とは対照的な形で実現し、いまや人口35万を目指す。その昔、そのMK市の開発公社と面談して情報収集したいと、日本のコンクリート製品、電柱、枕木等の製造大手の副社長がひょっこり訪ねて来た。その会社とは米国合弁投資で緊密な関係にあり、ロンドン駐在の私が案内する。PC鋼線がコンクリ製品に使われる。その人は旧国鉄の幹部技師出身で、英語は一切喋らなかったが、その専門知識と彼の性格故に、実に快活に会合をこなし、この美しい町に林立する街灯群の技術上の英国情報を得て、満足気に帰って行った。

 ウォバーン・アビイが近い。アビイは元来修道院のことだが、後に変貌してできた宮殿もそう呼ばれる。近くにベッドフォード公爵、ラッセル家の領地があり、その維持の為サファリパークを営むアビイを、昔家族で観光した。ネットを開けると、70年代、ゴルフクラブ開場時のベッドフォード公爵一家が満面の笑みで並ぶ。貴族の多角経営も大変だ。因みに英国の真髄とも言うべき、スィーツのワゴン付きアフタヌーンティーは19世紀初頭、ベッドフォード公爵妃アンナの空腹を満たすべく出されたケーキが嚆矢となったとか。

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