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「800字文学館」

擬態

内藤 真理子

 夏の初めに日除け用に胡瓜とゴーヤを植えた。二階の雨樋から網を張り下ろし地面に固定させ、そこに這わせようというのだ。
 両方ともすくすく伸び、一ヶ月もしないうちに網に絡まりながら一階の天井迄達した。
 胡瓜の方が先に実を付けた。
 さっそく収穫。水洗いをして口に入れると、滑らかに身が締りサクッとした歯触りがする。レタスやトマトと一緒にサラダにすると、胡瓜だけが自己主張をしていて際立ってみずみずしく歯ごたえがあり、圧倒的に美味しい。
 その上採れるわ採れるわ、できるだけ新鮮なままと思い、使うだけのものを切り取ると、残りの胡瓜はぐんぐん育ち、朝は食べごろの太さだったものが夕方には長さも太さも倍ぐらいになる。
 糠漬け、塩漬け、酢漬けにと忙しい。
 そうこうしているうちに胡瓜は二階の屋根まで伸びた。ゴーヤも同じように成長し、一か月遅れで実をつけた。どうやら小ぶりのものらしく深緑で手榴弾そっくりの形をしている。
 胡瓜に比べると葉っぱが小さく周りが尖がっていて美しい。形も手にはいる程の大きさで、花はレモンより濃い黄色だ。
 外見はワニの皮膚のように固くごつごつしていて緑色だが、ちょっと油断をすると黄色や悪魔的な毒々しい赤に変身してしまう。
 自然はすばらしい芸術家ではないか!
 ゴーヤがなり始めると、胡瓜の方はくたびれて葉が貧相なこげ茶色となり、実も先細りになって来た。もう終わりだ。実の付いている一本だけを残して後は抜いてしまった。
 ゴーヤはますます元気で葉を風にきらきらとなびかせながら、手榴弾のような実をたくさんぶら下げている。
 たった一つ残った胡瓜は勢いに飲まれたのか、途中から長くなることをやめ、太ったゴーヤと同じ緑色の手榴弾の形になっていった。
 擬態をする昆虫をテレビで見たことはあるが、植物でもこんなことがあるのだろうか。私は手榴弾そっくりの形になった胡瓜をしげしげと眺め「最後の一個!」と唱えて、味噌をつけて食べてしまった。

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