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「800字文学館」

打ち上げ花火は「いい匂い」

大越 浩平

 隅田川の花火をテレビ桟敷で観ていた。ゲストの若い女性が花火の硝煙をいい匂い、と感動していた。戦争を知らない子供たちの子供だ。

 卯年の私は戦争を実体験している最後の世代だ。防空壕からB29に届かない高射砲の弾道に見入っていたり、買い物途中に機銃掃射に遭い、血だらけになった隣のが、簡単に死ぬのを凝視していた。敗戦し、天津からの引き上げでは、無蓋貨車や有蓋貨車に乗って移動していると、毛沢東の八路軍に襲われる。防戦し守ってくれたのは蒋介石の国民党軍だ。パンパンパン、ビシビシビシと銃声が響き渡り硝煙が立ち込める。
 対岸の霞んで見えない大河から玄界灘を渡り、仙崎にたっぷり船酔いして帰国した。

 打ち上げ花火が大好きで子供の頃、京王閣花火大会によく行っていた。会社勤めになり、花火会場に行くこともままならなくなり、テレビ鑑賞でお茶を濁していた。画像が売りのHiビションTVが発売されると早速購入した(途轍もなく重く電気屋さんに設置して貰ったが、廃棄するときには往生した)。画像も格段に良くなり満足していたが、音質が良く重低音の迫力が十分で、子供の頃には気付かなかったトラウマが出た。ドーン パチパチの音が大砲、機銃掃射、爆弾に重なるのだ。まして硝煙の匂いによい思い出は無い。

 アニメやゲームの戦争には、人間の血を感じる事は少ない。敵機に人間が乗り、地上の人間が逃げ惑っているのを想像だに出来ない。特攻機の撃墜される映像は大嫌いだ。

 ドーンと打ち上がり、大輪が開きパッパッと二色に変化し、柳の葉のようにパチパチと火の粉が舞い降りる。子供の頃の花火は単純だが感動した。打ち上げ花火の進化は早い。キテイちゃんが打ち上げられた時は驚き、令和元年隅田川の花火で、タンポポの花が咲いた時は技術の進歩に感嘆した。花火師の音楽鑑賞力が読めてしまう音楽付き花火は好きではない。

 打ち上げ花火を心から楽しめる時代が続くよう行動したい。

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