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「800字文学館」

南アルプスと八ケ岳の狭間

中村 晃也

 梅雨明け三日後の記録的な猛暑の日に甲州路を辿った。濃厚な緑に囲まれた高速路を走るのは快適だ。長い笹子トンネルを過ぎると眼下に甲府の街並み、前方に雲に抱かれた南アルプス連山が見えて来る。

 須玉ICで降り日野春駅近くのオオムラサキ飼育センターに立ち寄る。い くつかの昆虫展示室の奥に特大の温室があり、多数の雌と少数の雄蝶が樹液を求めて乱舞している。雌は大型であるが紋様は地味で、小型の雄はなかなか翅を広げてくれない。小一時間ほど蝶を見て過ごし、隣家の小学生にと、大型の甲虫の雄を六百五十円で購入。

 釜無川沿いの国道を経て、サントリー白州工場の緑陰のテラスで昼食。その後、近くの道の駅に立ち寄る。カウンターの傍に60×40センチの大きな箱が積んであり、やや固いものもあるが、ソフトボール大の真っ赤に熟れた桃がなんと二十四箇入りで二千円の値札。
 「訳あり」の注釈書によると、出荷時のサイズや熟度の規格外品で、お持ち帰りに限り、郵送はできない由。となりの棚の見栄えのよい規格品は六箇で三千円だ。

 お目当ての明野町にある山梨フラワーセンターの向日葵畑は圧巻である。八ケ岳に面した斜面を二ヘクタール毎に区切り、播種の時期をずらして栽培し、八月半ばまで順に開花させている。山を遠景にして高所から向日葵の海を一望しながらの、地元お薦めのヒマワリソフトアイス。黄色いアイスの上にヒマワリの種の芯をあしらってあり絶品だ。

 甲府昭和ICから車内の桃の熟した香りを気にしながらの帰路、掲示板に「火災事故発生」の表示。上野原ICの近くから完全渋滞の呈で、一時間も足止めをくった。高速道路際の家が燃えたのかと思ったら、なんと路上で中型車が全焼したらしい。  通過時に見た事故車は完全に燃えつき、四角い台車の燃えカス、まるで焼き場でみるような少量の骨と灰そのもの、を運搬車両に積み上げているところだった。

 事故のお蔭で、折角購入した甲虫は遺骸となってしまった。

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