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「800字文学館」

アニサキスを知っていますか

首藤 静夫

 食欲の落ちる残暑の時期、さっぱりしたものをと、アジと胡瓜の酢和えで一杯を思いついた。スーパーの鮮魚コーナーにいそいそ足を運ぶ。
 だが、1匹ものの生食用アジがない。別のスーパーにもない。意地になって3店目に。あった!だが、中型2匹のパック入りで480円。冗談じゃない、そんな高い酢和えなど食えるか。僕は、1匹百円のアジをトングでポリ袋にいれるつもりで店に来たのだ。
 売場の張紙が目についた。
「寄生虫予防のため、当面生食用のアジ、イワシは手控えさせて頂きます」
 係に尋ねて分かった。最近、魚につく寄生虫でどの店も神経質になっている。万が一、お客がアニサキスに当ったら大変なので慎重になっていると。

 アニサキスをご存じだろうか。2年ほど前にお笑いの渡辺直美が寿司弁当のアジでやられたとテレビで賑わった。古くは森繁久彌がやられ、「屋根の上のバイオリン弾き」公演に穴をあけた。
 この寄生虫はサバ、アジ、カツオなどの青魚やイカなどの内臓に巣くう。そして時間とともに内臓から魚肉部分に移る。知らずに食べたらたまらない。アニサキスは胃の粘膜を食い破り激痛を引き起こす。病院に運ばれ鉗子でつまみ出すという大事にいたる。

 昔の人は心得ていて生食にするなら、獲れたてのうちに内臓を除く、表面を炙る、細切りにするなど色々と知恵を絞った。サバ・アジのメッカ、豊後水道の浜辺で育ち、生の青魚を食べてきたが当った人は知らない。
 冷凍すれば問題ない。だが最近、低温での流通技術が向上し、冷凍せずに低温状態で都会に運ぶため、時間とともに寄生虫が肉部分に入りやすいのだ。それを生食するから都会でのアニサキス禍が増えている。
 面白いのは、養殖ものは案外安全だとか。人工飼料で育つので魚が寄生虫を飲み込む割合が少ないのだ。やっぱり冷凍と養殖ものが庶民の味方なのか。
 宝くじも福引きも当ったことがない、アニサキスなど当るものか。気にせず食欲の秋を満喫しよう。

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