作品の閲覧

「800字文学館」

ノルウェーの旅1 スカンディナヴィア山脈列車横断

志村 良知

 1998年5月23日。
 首都オスロから北海の港町ベルゲンへ496kmの列車の旅。間に横たわるスカンディナヴィア山脈を越える山岳鉄道で、175の雪崩除け桟道とトンネルがあり所要時間は7時間45分。

 オスロ中央駅の3番線、日本からの団体になんと幕の内弁当が配られている。「信じられないだろうが現実だ、ただし手出し無用」。赤い電気機関車に引かれた列車が入線してくる。昨日買った2等指定席は3号車の19と20。標準軌の幅の広い車両に2+2のリクライニング・シートで新幹線のグリーン車並である。

 発車するとすぐ田園風景になり、晩春の緑の中を走る。水面に細かい襞が見えるのは海に繋がっているフィヨルド、鏡のように景色を映しているのは湖だという。走るにつれて季節が逆行し、緑が少なくなる。ヤイロという駅あたりから雪山が現れ、至る所にあるスキーのゲレンデはまだ営業中のように見える。まもなく列車の周辺も真冬の雪景色。山岳地帯をトンネルと桟道で縫いながら、身をくねらせるように走る。ところどころに真っ平な雪原が見える、おそらく凍った池であろう。
 窓の外は真っ白になり、スキーを履いた人が歩いている。フィンスに着く。ここは『スターウォーズ・帝国の逆襲』の「氷の惑星フォス」のロケ地として有名である。撮影は猛烈な寒気の中、役者とカメラマンのみ外で、演出側は暖房の効いた車から出なかったという。
 停車中外に出てみると粉雪が吹き付けてくる「おいおい、5月も末だぜ」。駅標の前で写真だけ撮って早々に車内に逃げ帰る。車内販売の象印のポットに入ったコーヒーが熱い。発車するとすぐ標高1301mのノルウェー国鉄最高地点を過ぎる。

 標高865m、平均斜度40パーミルで海まで一気に下るフロム線の起点ミュールダール駅を過ぎるとまた緑が戻ってきて、ベルゲンは晩春だった。シーフード料理で有名なベルゲンには鯨肉料理もある。今夜はでかい鯨のステーキを食うぞ。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧