作品の閲覧

「800字文学館」

カネやんの思い出

塚田 實

 10月6日昭和の名投手金田正一氏(愛称「カネやん」)の訃報が流れた。ニュースに驚くとともに、6年半前のカネやんとの出会いを懐かしく思い出した。

 2013年3月会社生活を卒業した。何をしようかと考えていたが、取り敢えず散歩だと決めた。3月30日の新聞に、首都高速3号線と中央環状線を結ぶ大橋ジャンクションの屋上に、目黒天空庭園が同日開園したとの記事が掲載されていた。家から庭園までは約4キロメートル弱の距離だったので、4月5日天気も良いので散歩に出かけた。

 屋上からの眺めは抜群で、ループ状の庭園には芝桜が咲き、小さい子供連れのお母さんたちが散策していた。ふと気が付くと、カネやんとマネージャーらしき人が10メートルくらい先のベンチに腰を下ろして談笑している。遠慮がちにカメラを向けると、気が付いたのか、私に向かってこっちに来いと手招きするので、おそるおそる近づいた。
「私小さい頃父親に連れられて、甲子園球場によく行きました。国鉄スワローズとの試合は何回も見ましたが、金田さんが投げると阪神タイガースはいつも負けていました。負けてやけくそで六甲おろしを歌っていました。投球練習はピッチャーマウンドの後ろから始め、少しずつマウンドに近づいていましたね。それがすごく印象的で頭に残っています。背番号34が大きく見えました」
 カネやんはにこやかに微笑みながら、楽しそうに聞いている。
「阪神にはよう勝たしてもろた。並んで一緒に写真を撮ろうや!」
 写真を撮って暫く歓談した。甲子園球場のスタンドから大柄のカネやんを遥かに見ていると、少し怖そうなイメージがあった。長嶋選手のデビュー戦で連続4三振をとった迫力、ロッテの監督時代熱血抗議をした姿がカネやんだと思っていた。しかし直に話すと、対応は丁寧で、細かな気配りもするとても優しい男だった。それからカネやんが大好きになった。
 カネやん思い出を有り難う。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧