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「800字文学館」

ラフカディオ・ハーンと小泉節子

内藤 真理子

 『日本の面影』ラフカディオ・ハーン著を題材に読書会があった。ご存知小泉八雲である。読書会メンバーのNさんから、
「奥さんの小泉節子さんが書かれた『思い出の記』も青空文庫にありますよ」と進言があった。その本は英訳して出版されたものを日本語訳にしたもので、外国人が使う日本語のような記述だが、面白かった。彼女が紹介するハーン(ヘルン)は、極正直者で微塵も悪い心のない人。女よりも優しく親切だが、一国者で感情の鋭敏なところは驚く程だったそうだ。
 彼のこのような性格は、この記の全編を通して根底に流れていた。
 ハーンの本に「盆踊り」の項目がある。彼は盆踊りを〈夢幻の世界にいるような踊り〉と記し、その様子の一部を要約すると〈無数の白い手が掌を上へ下へと向けながら波打つのに合わせて、妖精の羽のような袖がほのかに浮き上がり本物の翼のような影を落としている。それらの動きをみていると、まるで催眠術にでもかかったような感じがしてくる〉と書かれている。
 節子の思い出でも、盆踊りを求めて色々な所に行ったことを書いている。〈ハーンは杵築は陽気な豊年踊り、下市はご精霊を慰める盆踊り、境港は元気の溢れた勇ましい踊りだと申している〉とあった。こんな賑やかな盆踊りを見ながら、彼はその中に幻想的な世界を感じていたのだろうか。
 ハーンは『耳なし芳一』を代表するような怪談も数多く残している。「怪談の書物は私の宝だ」というハーンの為に節子は古本屋で買い求めた怪談の本を、淋しそうな夜、ランプの芯を下げて読んだ。彼は質問をする時には殊更声を低くし息を殺して恐ろしくてならぬ様子で聞くので節子の話にも力がこもった、と書いてある。
 ハーンの好きなものは、西、夕焼け、夏、海……、淋しい墓地、怪談……、とあった。
 先日、ハーンと節子の眠る雑司ヶ谷の墓に行って来た。それは周りの風景に溶け込んだ古びて風格のある墓だった。
 本の中の二人を見たような気がした。

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