英国ヨーク地方
今から120年以上前に、吸血鬼の代名詞になったドラキュラが生まれたのが英国北東部、ヨークのウィットビー。アイルランド人の作家、ブラム・ストーカーの書いた恐怖小説『吸血鬼ドラキュラ』に出てくる。物語では、ドラキュラ伯爵が船で漂流して流れ着いた地として登場する。
北海に面する英国ノース・ヨークシャー州のこの港町には、ロンドンに住む娘一家を今年尋ねて行った折にドライブ旅行で立ち寄った。ドラキュラに興味があったわけではないが、ジェームズ・クックが大型帆船エンデバー号で出航した港町としても知られているし、映画『ハリー・ポッター』シリーズで撮影されたノース・ヨークシャー・ムーアズ保存鉄道もここにあるのだ。
この町のはずれに建つのがウィットビー修道院。657年に建てられ、今は使用されてはいないが、中に入ると歴史の流れを感じさせる見応えのある建造物である。九世紀のバイキングの侵略等により今では廃墟と化しているが、緑に囲まれた修道院跡は英国有数の孤高の絶景ポイントと案内書に記されているのが「なるほど」と理解できる。
この廃墟の修道院の他には、今なお民衆の信仰を集めている聖メアリー教会が同じ高台に佇んでいる。吸血鬼のイメージがある一方で、石畳の道にはカラフルな外壁の可愛い家々が並び、レストランやカフェ、ブティックや雑貨店はどれも魅力的で大勢の観光客を呼び込んでいる。また港の観光クルーズをはじめ、クルーズで沖に出るとイルカやクジラ・ウォッチングを楽しめるらしい。
英国史を学ぶ際には必ず出てくる火薬陰謀(ガン・パウダー)事件は、1605年に発覚して未遂に終わった。その時の実行責任者はここヨーク生まれのガイ・フォークスであることを思い出した。
ヨーク地方は、一般に「神の恵みの地方」と称され、英国の大手新聞の『ガーディアン』紙は北部ヨーク地方を「イングランドの庭園」と言い表した。英国人にとってヨークは心の故郷なのだ。