作品の閲覧

「800字文学館」

先端を行くピアニスト宮谷里香さん

川口 ひろ子

「モーツァルト心の微笑み」という副題を持つ宮谷里香さんのピアノリサイタルを聴いた。心は微笑むものか? 今どきの若い人はこの様な難解で奇妙な日本語を使うのか、と絡みたくなるが、まあいいか。

 ショパンコンクール上位入賞の輝かしい経験を持つ大柄な宮谷さん登場。大変な美人で会場は一気に華やぐ。前半はモーツァルトのピアノ曲4曲、後半はお得意のショパンが演奏された。
  先ずは「デュポールのメヌエットによる変奏曲K573」。指慣らし程度に軽く流してしまうのかと思ったが実に丁寧な演奏だ。スタインウエイのグランドピアノから次々と飛び出すダイナミックな音たちは満員のホール一杯に満ち溢れる。
  1789年多くの借金を抱えたモーツァルトはプロイセン国王に援助を願い謁見を賜る為に王の滞在先のポツダムに。しかし願いは叶わず代わりに宮廷音楽総監督でチェロの名手のデュポールを紹介された。必死のモーツァルトは何とかこの音楽家に取り入ろうと彼のチェロ曲をテーマにした変奏曲を即興で演奏したという。
  愛らしい旋律、易しいテクニックは「キラキラ星変奏曲」と共にお子様御用達として世間一般の評価は低いが私の大好きな曲だ。この日の華やかで堂々とした演奏がこの曲に相応しいかは疑問であるが、この様なロマン派風の表現が彼女の個性なのだろう。
  後半、お得意のショパンを弾き終えて、鳴りやまぬ拍手に応えてのアンコールは意外や意外「トルコ行進曲」だ。私たちモーツァルティアンへのサービスか。初めは通常の行進曲、次にトルコ出身の奇才ファジル・サイがトルコ風のジャズにアレンジした「トルコ行進曲」が飛び出した。聴衆は大喜び、宮谷さんもルンルンで体を揺らして一緒に楽しんでいる。

 豊かな音楽性と卓越のテクニック満載の宮谷さんのピアノリサイタルは、従来の生真面目なクラシック演奏会にはない新しい時代の空気を感じさせた。最先端を行くピアニストは新しい日本で思う存分羽ばたいてほしい。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧