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「800字文学館」

『大きな松のあるサント・ヴィクトワール山』

塚田 實

 東京都美術館で開催中のコートールド美術館展を観に行った。ロンドンに居たとき、自宅から美術館まで地下鉄を使って凡そ30分で行けたので、週末何度か訪れた。規模的にはあまり大きくない美術館だが、印象派を中心に多くの名画を蒐集・展示していた。

 コートールドには、マネ、モネ、ルノアールなど多くの作品があるが、セザンヌが好きだった。後のキュビスムや抽象美術にも影響を与えたと言われる彼の独特の立体表現が面白い。風景画は多彩な緑が直線的に描かれ、がっちりとした構図が印象的だった。彼の作品の中で、同美術館の『大きな松のあるサント・ヴィクトワール山』が特にお気に入りだった。田園風景が広がり、遠景にサント・ヴィクトワール山が、近景に松の幹と枝葉が大きく描かれ、まるで北斎や広重の浮世絵を見るようだ。この絵のプリントを買い求め、今は書斎の壁を飾っている。

 セザンヌに嵌まり、彼が生まれ育ち、晩年を過ごした南仏エクス・アン・プロヴァンスを訪れ、少しでも大画家の雰囲気に触れようと思った。
 2002年12月リヨンとミラノに出張する合間の週末に、時間を見つけて、エクス・アン・プロヴァンスを訪れ、先ず街の北にあるアトリエに赴いた。アトリエはセザンヌが亡くなったときのままに保存されている。静物画を描いたキューピッドやリンゴもそのままだ。
 アトリエを出て、坂を10分ほど登るとレ・コーヴの丘だ。セザンヌはここからサント・ヴィクトワール山を60点位描いたそうだ。ここから見る尖った石灰岩の山はとても印象的だった。
『大きな松のあるサント・ヴィクトワール山』は山頂の形から見て、少し南に下がったエクスの街のセザンヌの生家に近いところで描かれたらしい。

 半日たっぷりとセザンヌに浸った後、夜はニース近くのレストランで、ローヌワインを飲みながら、旬のプロヴァンス名産黒トリュフと地中海産オマールエビを楽しんだ。

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