「トーマス・クック」
1841年創業の英老舗旅行会社トーマス・クック社が破綻した。同社は、禁酒論者トーマス・クックが、酒に代わる娯楽として旅行を提案し、国外旅行を庶民の娯楽として根付かせるため創業した、といわれている。既に、製鉄業や造船業はほぼ姿を消し、自動車も英国ブランドは跡形もないという状況に加え、産業革命以降の輝かしい英国を象徴する企業が又一つ消えたこととなる。
もう30年以上も前の滞英中、同社の店が家のすぐ近くにあったので、二度お世話になった。何れも、7泊8日のパックツアー(自社運航の往復航空便+空港・ホテル間の送迎+ホテル宿泊、のセット)である。
一回目はイースターに、スペイン・コスタデルソルのマルベージャへ。
ホテルは、地中海の砂浜に臨み眺望絶佳、旧市街にも近く、パエジャ等の食べ歩きにも便利な場所にあった。グッドフライデーには、大きなマリア像を載せた壮麗な山車が、ベールを被った若い女性達によって静々と街を引き回され、カトリックとはこういう物か、と感じ入った。
又、アルハンブラ宮殿、モロッコのタンジール、白壁の街ロンダを、日本人らしく各々日帰りで忙しく訪問していたら、隣の部屋のイギリス人から、「無駄遣いをするな。白い壁と碧い空は何処でも同じだ」と窘められた。
二回目は夏休みにアドリア海東岸北側の港町ロビニへ(当時ユーゴ、現クロアチア。トリエステ迄50Km)。
このホテルも、街の真ん中で、港に臨む絶好の立地。食堂に行って出されたメニューは全てドイツ語!英語のメニューはないのか、といったらガサゴソと探し出してきてくれた。後刻トーマス・クック社のスタッフが十人程度の自社送迎客を集めて、「ここでは英国人は(と言いかけて当方の存在に気づき訂正して)、英語を話す人は少数派なので、困ったことがあれば何でも私に言ってくれ」と言ったとおり、周りに聞こえるのはドイツ語ばかりであった。そう、この地は長いことハプスブルク領だったのだ。