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「800字文学館」

「葛城のみち」を歩く

新田 由紀子

 奈良盆地の南、大和八木駅前から和歌山の新宮行きバスに乗って御所と五条の中間「風の森」という峠のバス停で降りる。「葛城のみち」はここから葛城・金剛の山裾を御所の町の方へ戻るようにして約10キロ、社寺や旧跡をつないでいる。
 歩き出してすぐひっそりと木々に包まれているのは「風の森神社」だ。一帯は稲作発祥の地といわれ、豊作を司る風の神が祀られている。ゆるやかに傾斜した田畑の間を行くと、古代豪族鴨氏の氏神「高鴨神社」に着く。全国の加茂 (鴨)神社の総本社で、境内の池には悠々と鴨が泳ぎ、隣の蕎麦処には鴨汁そばの幟が立っていた。
 道は次第に高まって金剛山の麓に向かう。コース一番のがんばりどころだ。森を抜けて杉木立の参道を行くと、「高天彦神社」に突き当たる。豪族葛城氏の祖神を祀る社殿は簡素ながら風格がある。あたりは天孫降臨神話の地高天ヶ原というが、質朴な山村風景で神様が降り立ったようなものものしさはない。棚田の広がる一画に「史跡高天原」の石碑が立っているが、雑草の生えた駐車場は閑散としている。近くに「高天寺橋本院」という弘法大師を祀る古寺があり、主な建物が失われて雑然としているのがかえって歴史を感じさせる。
 橋本院から森の中を下り畑道をたどって車道へ出る。「極楽寺」前の小道をさらに下って里宮や民家の間を通り、高野旧街道の宿場町名柄に入る。天武天皇が馬事を行ったという「長柄神社」が見どころだ。
 旧家の蔵を曲がると、道は葛城の大神「一言主神社」の参道になって山側に向かう。この神様は一言の願いを聞いてくれるというので、神妙に手を合わせる。見上げると、拝殿の神鏡が自分の顔を映している。願いの一言を自らに言い含めよということなのだろうか。
 日の陰った小さな集落を縫って「葛城のみち」は続く。「綏靖天皇高丘宮跡」で大和国原を一望しながら一息。さらに歩いて「九品寺」裏山の千体石仏を巡り終えると、御所の街が見えてきた。

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