作品の閲覧

「800字文学館」

正義は勝つか

大津 隆文

 子供の頃はご多分に漏れず漫画や冒険物語が大好きだった。話の最後はいつも正義が勝つことになっていたが、ある時本当にいつも正義が勝つのか心配になった。悪の方が強ければ悪が勝つこともあるのではないかと不安になったのだ。正しさを貫くためには自分が強くなければいけないと空手の練習をしたりした。
 幸いなことに現代は法の支配する世界で、むき出しの力だけで正邪が決まる訳ではない。最終的には悪は糺され正義が勝つためのシステムが整備され、その信頼感が世の安定を支えている。
 ただし何が正義か、何が正しいかは簡単に決められないことが少なくない。双方がそれぞれ正しいと主張する意見が異なることはよくある。原発や捕鯨の問題では正義が複数ある印象だが、この場合も意見の違いを力によって決着させるということにはならない。
 国家間でも、日本と韓国や中国やロシアとの領土問題は、日本の方が正しいと思っているが、相手国も自国が正しいと主張している。国内と違って国際政治の世界では正義が勝つというシステム、信頼感は出来上がっていない。最終的な拠り所は軍事力となっている現状は今後人類が克服すべき課題であろう。

 一方で勝てば官軍、即正義かというとそうとも言い切れないように思う。先日ラジオの相撲放送で「横綱は得意の張り手で云々」と報じていて、張り手が得意とはと興ざめだった。スポーツは厳しいルールの下で勝負が決まるが、勝ち方にも美学を求めるのは競技が相撲だからだろうか。正義には単に強いだけでなくプラスアルファがあって欲しい、勝者はそれを備えて欲しいという気持が人々にはあるようだ。
 ビジネスの世界でも儲かりさえすればいいという会社と、古風な言い方では商人道、最近ではESG(環境、社会、企業統治)重視の会社との勝負では、後者に勝って欲しいし最後は勝つのではないか。
 徳を備えた正義に勝ってほしい、そうあるべきだという人々の思いが結局はそれを実現する力になると信じたい。

作品の一覧へ戻る

作品の閲覧