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「800字文学館」

印象派の音楽と絵画の融合

中村 晃也

「辻井伸行の生演奏とともに著名な絵画が楽しめる人気コンサート」との宣伝にのせられ、渋谷のオーチャードホールに急いだ。

 辻井の演奏に合わせて、印象派の画家の著名作品をはじめ、彼等に大きな影響を与えた浮世絵や、クリムト、ミュッシャそれにロートレックなど十九~二十世紀に活躍した画家の作品が、ステージ上の大スクリーンに高画質で投影されるのだ。

 例えば、ドビュッシーのアラベスク第一番に合わせてルノアールの「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」「ぶらんこ」「ピアノの前の少女」などが、第二番ではドガの「踊り子」を主体とした数点のオルセー美術館の絵画が、同じくドビュッシーのパスピエに合わせてゴッホの「夜のカフェテラス」「アルルの跳ね橋」などのクレラー・ミュラー美術館の絵画が現れる。

 (映像)第一集の「水の反映」では葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」「甲州石班沢」が、第二集では広重の「名所江戸百景」から三画。先ず画面斜めに無数の雨の線が大写しに現れ、次いで遠景に頬被りの舟子が懸命に舟を漕いでいる画像。カメラを引くと手前に欄干が現れ、雨笠の武士や尻を端折った町人が大橋を小走りにゆく絵画全体が映し出され、名画「大橋あたけの夕立」になるといった趣向である。
 第三集では「富嶽三十六景」から四画。その中で、先日訪れた駒込の東洋文庫で見た北斎の八ツ滝が出てきたのには感慨を覚えた。

 サテイの曲に移ってクリムトの「接吻」「乙女」や、ミュッシャ、ロートレックのリトグラフと続き、ラヴェルのソナチネではモネの「日傘をさす女」「睡蓮」「印象・日の出」「積みわら」「ひなげし」「サン・ラザール駅」などの一連の懐かしい名画が投影される。

 先日読んだ直木賞、本屋大賞の「蜜蜂と遠雷」(恩田陸著)で、予選から本選にいたる国際ピアノコンクールの出場者の血の滲むような努力を知るにつけ、小曲ばかりとは言え十七曲を弾きこなした全盲の辻井伸行の才能には目を見張るばかりである。

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