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「800字文学館」

連載小説

内藤 真理子

 新聞の連載小説を読むのが好きだった。新聞を読む暇がなくても連載だけは読んでいる。旅行などで読まなかった日も、後でまとめて読む。何といっても続き物は次がどうなるか気になる。
 きっかけは、十年程前、林真理子の『下流の宴』が連載された時のことだ。痛快成功物語とでもいうのだろうか。上流階級の家の息子の恋人が、息子の母親曰く〝下流の家の子〟なのである。彼女は女子高生でたくましく健気に現状を逆転させていく。ワクワク、ドキドキ、ハラハラしながら新聞が来るのを待って夢中で読んだ。
 それ以来、朝刊も夕刊も日曜版も連載小説と名の付くものは必ず読むことにしている。だがいまだにあれほどときめいた連載には巡り合っていない。あの頃には、まだ物語にどっぷり入って行く若さがあったのかも……。
 最近は読んでもなかなか理解できないことがある。私の頭が、若い作家の思考について行けないのか、はたまた思考力が衰えたのか。何日か前にさかのぼって新聞を広げ、読み返している。我ながらそこまでして読まなくても、と思うのだが習慣とは恐ろしいもので読まずにはいられない。
 昨年は、芸人で芥川賞作家の又吉直樹の『人間』が連載された。芸人や芸術家の話で興味津々に読み始めたのだが、登場人物の感覚やせりふが若すぎて気恥ずかしい。感情表現が緻密で息苦しくなるほど真剣で読んでいるだけで疲れ果て、はじめて途中で投げ出した。
 現在は阿部和重の『ブラック・チェンバー・ミュージック』を連載している。題名を見ただけで敬遠したくなったが、読むことに使命感を持っているので読み始めた。
 三十歳位の男性が主人公。北朝鮮から密航してきた女と共に何やらを探るのだが曖昧模糊としている。数時間の彼の動きだけで23日を費やすテンポの遅さにイライラ。金正日や何故かヒチコックが飛び交い、ヤクザも大学教授も出てきて何が何だかわからない。この連載が終わるまでには理解できるだろうか。不安だ。

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