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「800字文学館」

見方を変えて

池田 隆

 狩猟採集から農耕牧畜への農業革命は一万二千年ほど前に中東、中国、中米で勃発する。それらの地域では農耕牧畜に適した希少な生物種が生息していた所為だ。革命は世界各地に伝播し、人間の知能を進化させ、人類の大躍進の原動力となる。農耕民は危険で不安定な狩猟採取を捨て、愉快な楽しい暮らしを始めた。
 と、かつては考えていたが、それは夢想である。人類が農業革命で得た食料の総量はたしかに増加した。しかし平均的な農耕民にとっては労働強化につながり、人口爆発と飽食のエリート層の出現で、手にする食物は質が下がり、量は減る。史上最大の詐欺犯罪であった。
 その犯人は小麦、稲、ジャガ芋など、一握りの植物種である。見方を変え、小麦の立場から考えてみよう。人類が彼らを栽培化したのではなく、逆に彼らに家畜化されたのだ。限られた地域に自生する、平凡な野生の植物の一種にすぎなかった小麦が、人類を朝から晩まで働かせることで。世界各地へと繁殖していく。
 雑食性の人類は限られた種類の食物と過酷な労働で、健康と体力を弱める。また単一食物へ依存する暮らしは、気候変動に対し不安定となる。

 以上はイスラエルの歴史学者、ユヴァル・ノア・ハラリが著した『サピエンス全史』の一節の要約である。彼の着想を借りよう。
 日本列島では縄文人が何千年も狩猟採取と農耕をバランスよく採用してきた。だが三千年ほど前から稲作技術を持ち込んできた弥生人と同化し、小麦以上に我儘な稲をご主人様と仰ぐようになる。日本人は視野の狭い、従順で几帳面な家畜に飼い慣らされた。
 産業革命後はチャップリンの『モダンタイムス』のように、機械が人を支配した。IT革命後は皆がスマホに向って頭を下げ続ける。千年来の硬貨や紙幣も電子マネーや仮想通貨となり、姿を消しつつある。近々、AIロボットの言いなりに人類が行動する大革命が起こりそうだ。

革命、改革、改正にはだまされない。
見方を変えて、ストップ詐欺被害!

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