フレンドリー コンペティション
「中国の敬業グループ、ブリティッシュスティール(BS)救済に暫定合意」。十一月のロイターの記事に目が止まる。その昔、ロンドン駐在で鉄鋼貿易に関わった。余曲折の後BSはいま粗鋼生産330万トン規模に凋落、昨年五月経営破綻した。この動きは雇用確保の観点から歓迎され、一方中国の野心的な「一帯一路」戦略の一手が話題を呼ぶ。中国は日本の技術援助に始まり、いま世界最大の、粗鋼生産10億トン若の鉄鋼供給国である。
七十年代、BSC(当時は英国鉄鋼公社)も国有化故の問題を抱えたが、サッチャー政権による容赦のない合理化の断行により回復する。その頃の物語である。
追い風の北海油田開発では、国策により、資材は国産品優先策が採られる。日本勢独占の最中である。突如、石油業界の雄BP社が立ちはだかった。ゲール風の吹き荒れる冬の北海の環境用に厳しい鋼材仕様が要求された。即ち、超低温下での衝撃試験値の保証、それは、不純物硫黄の制御にかかる。BPは、この高品質の保証は日本メーカーのみが可能と熟知して譲らない。BSCは賢く、北海用受注は、あっさり日本側に転注し、日英の協業が実現する。BSCグラスゴーに通い、相方のフレミング君とパブで親交を結ぶ仲になる。
ある日、私の秘書から緊急連絡、アメリカ人から恐ろしい電話で、自分が行くから明日の東京行きのフライト、ホテル予約をせよと指示されたとのこと。米国メジャーオイルC社は北海鉱区に利権を持ち、スコットランドでオイルリグを建設中だ。折悪しく、日本側で鋼材の納期遅延が発生した。電話の主はC社のロンドン所長、翌日、グラスゴーから飛んで来たフレミング君とその御前にひれ伏した。彼の執り成し振りが凄い。文字通り額から汗をボトボト垂らし、事情説得に努める。その間、彼は日本側を指さす様な態度は微塵も示さず、契約者としての責任感に満ちて、謝罪と誠意を前面に、打たれ役を演じ切ったのである。
世界市場で熾烈な競争を展開した宿敵同士が、こんな協力関係の物語を共有した。ある英国人曰く「これぞ、Friendly competitionですな」