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「800字文学館」

清盛と頼朝

首藤 静夫

「何でも書こう会」で初の鎌倉合宿である。朝のうちに鶴岡八幡宮に参拝し、今年の筆運を祈った。10年前の台風で倒壊した大銀杏もひこばえが成長している。水平に切断された倒木の巨大さを眺めながら、それにしても神社の正面階段で実朝が暗殺されたのが不思議な気がした。将軍の警護は厳しかったのであろうし、いくら大銀杏といってもその陰に潜んで暗殺できるものだろうか。

  実朝の死により源氏はわずか3代で終わった、というより1代というべきか。頼朝は落馬が原因の病死と伝えられるが暗殺説も根強い。古代世界を終わらせ、中世の幕を開いた偉大な政治家であるが、今もって死因が謎なのだ。一般に頼朝の実像はベールに包まれている部分が多い。英雄につきものの豪傑譚や失敗談、滑稽談などの逸話が少ない。大河ドラマの主人公になりにくい大物の一人だろう。近代の大久保利通といったところか。
 思慮深い、慎重な性格の頼朝であるが、妻政子には頭が上がらなかったようで、易々と妻の実家、北条の跳梁を許した。北条に後を託すのならともかく、源氏の血統を守るためには用意周到に後継体制を固めるべきだった。
 全体に源氏はまとまりが悪い。近親間で骨肉の争いが絶えない。武将としての明るいイメージは八幡太郎義家まで、後は陰湿である。

 対照的なのが平家だ。法皇を押し込めたり、勝手に遷都したりのやり放題。しかし清盛に代表される明るさ、そして一族うち揃っての壮烈な滅亡。その中の悲話、哀歌、それを語る琵琶の音――すべてが華やかで且つうらがなしい。
 平家の時代、頼朝や義経は清盛の慢心と大らかさにより生存を許された。やがてはこれが平家の命取りとなるのだが。
 一方の頼朝は、得体の知れない異母弟範頼、義経を信じられずに滅亡に追いこんだ。頼朝の慎重さと猜疑心の勝利であるが、まもなく源氏の血筋を絶やすことになった。直系の血筋を絶やしたのは源平同じであるが、さて、あなたはいずれが好きですか?

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