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「800字文学館」

アラブ首長国連邦(UAE)、ドバイ

斉藤 征雄

 UAEのアブダビ空港に降りてバスでドバイに入り、三日間ホテルに泊まって観光するツアーに参加した。
 観光の目玉は世界一の高層ビルや人工島の高級リゾートなどで、歴史的なものは何もないが、この地を訪れる観光客は今やパリに匹敵するという。

 UAEといえば、世界7位の埋蔵量を持つ産油国である。しかしその大部分はアブダビが占めてドバイはわずか4%に過ぎず、早晩枯渇するといわれる。
 そこで、石油があるうちに脱石油化したいとの思いで30年前からとられた戦略が、外国企業の誘致と観光産業で、この間得られたオイルマネーはインフラの整備と観光資源の創出に注ぎ込まれた。
 その結果砂漠の国のこの都市は、奇抜なデザインの高層オフィスビルや外国人のための高層マンションが林立し、緑化が進み、無人の交通システムが走り、人工島の高級リゾートが開発され高級ホテルが軒を連ねて、まさに「人工の都市空間」に生まれ変わったのである。エミレーツ航空を核とするドバイ空港もハブ空港として貢献している。
 そして、人口約300万人のうち85%が外国人という特異な国際都市となった。もともとのドバイ人は、公務員として高給をもらい石油の富の分け前に与っている。
 世界の歴史に類をみないドバイモデルは、成功したように見える。現にUAE内のアブダビをはじめカタールなどの湾岸諸国は、こぞってこれをモデルにした開発を進めようとしている。

 しかし本当にドバイの将来は大丈夫なのだろうか。
石油の収入が途絶えたあとも、外国企業を優遇するタックスフリーが続けられるのか。脱石油とはいっても、たとえば飲料のみならず緑化のために石油を燃やして水を作る海水淡水化のコストは、石油収入がなければ維持できないだろう。また、もともとのドバイ人が生きがいを持って暮らす居場所がこの国の将来の中にあるのだろうか。などなど、多くの疑問が生まれる。
何年かあとには、砂漠のなかの廃墟にならなければよいが、と思った。

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