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「800字文学館」

うらめしや ポイント還元

首藤 静夫

 昨年秋より消費税が10%になっている。結構なことだ。切りがいいから計算しやすい。ところが変な特例がついている。中小の店で買い、キャッシュレスで決済すると5%のポイント還元が行われるのだ。今年6月末までの有期限の措置らしい。フーン、面倒なことをするとボンヤリ聞いていた。これが僕の日常生活に影響を与えようとは――。
 元来、クレジットカードは持ち歩かない主義だ。なくす心配があるし、一杯入ると気が大きくなって思わぬ散財もする。これまで財布には1万円札1、2枚と少額紙幣とを入れて生活してきた。何の痛痒も感じなかった。ところが、このポイント還元を機にカードを持たされることになった。
 とにかく主婦はポイントが好きである。スーパーでも毎月の割引やポイント10倍の日は混み合う。それが日々の買い物すべてに5%の恩典となるとこれはある種の消費革命だ。キャッシュレスで精算している主婦が多くなった。
 妻からカードで支払うようにとVISAを渡された。レシートは必ず貰うように言われている。後でカード会社から送られてくる請求額の明細とその月に使ったレシートの束を付き合わせて請求額が正しいか、妻はチェックしているのだ。彼女が好きでやること故文句もないが、頼まれて近くの市場で1房99円のバナナと4個入り118円のヨーグルトを買い、カードで精算するなど大の男のすることか。
 ある時、回転寿司で独り昼食をし、カードで支払った。ところがクレジットのレシートを妻に渡す際、うっかり寿司店の利用明細票まで渡してしまった。目ざとくそれを眺めた妻が、フーン、昼間からビール飲んでるんだ!一皿百円台だけでなく、二百円台も食べてるわね。
 現役時代、社内向け交際費の使い途について、毎月上司への説明に四苦八苦した。今また箸の上げ下ろしの類にチェックがかかるとは。あー、早くオリンピックの時期になって、このケッタイな5%がなくなってくれないかなあ。                     

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