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「800字文学館」

古代の天皇

斉藤 征雄

 奈良時代に作られた『古事記』『日本書紀』には、神話を織り交ぜて天皇を神聖化し、日本は天皇を中心として国家が形成、発展したことが記されている。
 記紀によれば、初代神武天皇はアマテラス大神の孫で日向に降ったニニギノミコトの曽孫である。そして日向から東征して大和を征服、紀元前660年に橿原で即位したとある。
 以後天皇家は男系の血筋が世襲され、万世一系が維持されてきたと説明される。

 戦後の古代史研究は、文献資料の解釈、考古学、民俗学、神話の解釈などの総合学問として行われてきた。その結果描き出された古代の王統の継承は、万世一系とはかなり様相を異にしたものである。
 王朝交替説は諸説あるが、概ね次の点で共通している。

  1. ①初代神武から九代開化までは実在ではなく、それ以降も実在と架空が混在している
  2. ②十代崇神が実在した天皇の最初で、十四代仲哀までが一つの系統と考えられる
  3. ③十五代応神または十六代仁徳から系統が代わり、二十五代武烈で滅んだと考えられる
  4. ④二十六代継体で新たな系統に代わり、継体以降はほゞ実在する

 神話に民族の誇りが表されているということを否定はしないが、戦前の皇国史観や大日本帝国憲法のように神話と歴史的事実を混同することがあってはならない。
 王朝交代が史実なら天皇家の万世一系は崩れるが、それによって歴史的に引き継がれてきた天皇制の意義が否定されるわけではないし、現在の憲法が定める象徴天皇のあり方を変更する必要もないだろう。

 現在、女性天皇、女系天皇の是非をめぐって様々な議論がある。その中で、特に女系天皇に反対する人びとは、男系の万世一系の血筋が絶えることを問題にする。血筋を重んじ、男系の万世一系の天皇を奉じるのが日本民族の精神的アイデンティティであり、そこに日本文化の核心があるという考えだ。
 しかし研究結果が示す歴史的事実に対してはそれを尊重し、天皇のあり方についても女性・女系天皇を含めて柔軟であってよいと思うのだが。

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