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「800字文学館」

奇妙な曲「音楽の冗談」

川口 ひろ子

 全てモーツァルトのコンサート「音楽の冗談」を聴いた。会場は紀尾井ホール、演奏は紀尾井ホール室内管弦楽団の若手演奏家たち15人。前半はモーツァルトが10歳の頃に作曲した3つの交響曲、後半は彼の晩年30代に作られた舞踏曲と喜遊曲「音楽の冗談」。代表の戸原直氏は聴衆に問いかけた。モーツァルトの人生で異なる時期に書かれた作品を一度に聴くことが出来る音楽会を企画してみた。文献からではなく演奏から彼の人生について考えてほしい。

 奏者の平均年齢は30歳か? 高い技量、瑞々しい響きは素晴らしかった。しかし今回の凝った企画に対しては、前半と後半の差を明確に弾き分けるなど、判り易く演奏してほしかった。特に「音楽の冗談」はもっとどぎつく、コミカルに!
 この曲は、熟練の極みにある天才が世にはびこる凡庸な作曲家やセンスのない演奏家をからかった冗談音楽で、今日でも度々演奏される人気曲だ。ホルンは派手に音を外し、ヴァイオリンは武骨なフレーズをしつこく繰り返す。調子っぱずれの連続はついにグチャグチャな終結となる。頬を真っ赤に染めて必死にこの支離滅裂に食い下がる若手演奏家たちであるが、いかにせん真面目で上品な演奏は説得力に欠ける。

 演奏から作曲家の生涯を想像せよという戸原先生からのお題は、私たち楽譜に不案内なアマチュアにとって大変な難問だ。的外れではあるが私の回答は以下の通り。
 9歳で天賦の才が輝いている交響曲を作り30台半ばで晩年を迎えたモーツァルトは、自分の才能を正しく評価出来ないウィーンの社会に対して強い不満を抱いていた。そこで皮肉たっぷり毒気満載の「音楽の冗談」を作曲、音楽に託して憤懣やるかたない心情を吐露した。
 これは現代にも共通した問題だ。社会に様々な欲求不満を持ち、自らの処遇を嘆く多くの人達の心を刺激する何かを持っている。この奇妙な曲が200余年を経た今日でも人気のある秘密はここにあるのではないかと思った。

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