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「800字文学館」

さすらいのプーラー

内藤 真理子

 近くにある杉並のプールは電車の駅から近いせいか、混んでいる。その上、週の半分は団体に貸し出しているので、一般の人の泳ぐスペースが極端に狭い。そんな不満を持った時から、私は、さすらいのプーラーになった。
 そして、混んでいないこと、外が見えること、30分以内に行けることを必須条件に、公共のプールを転々とした。

 世田谷区のは、中学校のプールを一般開放しているもので、地下にあるが、プール部分は一階まで吹き抜けになっていて、上部には窓があり、外の景色が見える。建物に接している方はガラスで仕切られていて、見上げると一階の図書室の本棚や、うろちょろしている中学生も見え、なかなかアカデミックな雰囲気で良いのだが、時間や日にちに制約があるのが難点。

 目黒区のプールにも行く。電車で15分。駒場東大前の公園を突っ切った所に体育館があり、その地下にある。上部に窓があって、わずかばかり外光を取り入れ、景色も見える。何と言ってもいつも空いている。だが、入場が二時間毎の入れ替え制なので、めんどくさい。

 武蔵野市のプールというのもある。ここは、駅から離れていて広々とした競技場の中にあり、プールは独自の建物で三面が窓、外の緑が心地よい。天井は開閉式で暖かい日には外気も取り入れられ申し分ないのだが、使用料が市民以外は400円。だが市民はたったの10円なので、いつも混んでいる。
 しかし、夏になると、50メートルの屋外プールが使える。青空を見ながら泳ぐ気分は最高なので、夏はもっぱらここに決めている。

 いろいろなプールをさすらい、再びホームグランドに帰ってみると、区民の高齢者は1時間130円と書いてある。
 現在私は年金暮らし、そうなれば話は別である。さすらうのはもうやめた。
 今は杉並のプールで、空いている時間をリサーチし、神技のように一時間以内に一キロ泳ぎ、着がえをし、髪まで乾かして、退出出来るか出来ないかで一喜一憂している。

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