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「800字文学館」

ウッドデッキとベニカナメモチ

志村 良知

 海外勤務から帰任したとき、静岡県裾野市の旧居は荒れていた。勤務先は新横浜になったが、事業部の本部は沼津なので、ここに住む可能性は残る。このまま売り飛ばすのはやめてリフォームすることにした。屋根、内装、外構までの大工事である。元請けは地元建設会社で、工事によってそれぞれの専門業者が来て、受け持ちの工事をしていく。全体の設計者でもある現場監督とは頻繁に会うことになり親しくなった。

 庭は雑草除けに平石を敷き詰めたインターロッキングとウッドデッキの半々を提案された。そのウッドデッキは横浜港大桟橋と同じ木材を使った30年は保つものだという。見積は超高額だったが、駐在員の金銭感覚が残っていたころで鷹揚にOKした。
 フェンスしかない隣との境界を見て監督さんは「生垣の木を買いに行きましょう」という。
 監督さんの車は何故かトヨタの超々高級車センチュリー。威風堂々乗り付けた苗木屋さんで選んだ木はベニカナメモチ、常緑で細かく密な枝張の灌木で真っ赤な若葉が美しい。センチュリーのリヤシートで我が家に来た6本はすくすくと育ち、沼津勤務をすることなく退職した頃には、ウッドデッキとも合って「別荘」と称しても良いかな、というレベルの庭になっていた。

 ところが好事魔多し、ゴマ色斑点病というベニカナメモチの致死性の病気がとりついた。普段住んでいないので、気付いたときは葉っぱが落ち、無残な姿になっていた。高さを大きく切り詰め病気の枝を切り、周辺の木も整理し、地面も清掃して殺菌剤を散布した。その後行く度に周囲も含めて木、枝、葉、地面まで消毒を繰り返してかなり盛り返した。
 今年、コロナ禍で一番肝心な初夏に行けなくなった。緊急事態宣言が解けるのを待って急行する。病斑のある葉もあるが若葉は美しく、まあ想定内で一安心。丁寧に手入れと消毒をした。この家も10年ほどで売ることになるだろう、それまでウッドデッキとベニカナメモチには元気でいてほしい。

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