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「800字文学館」

梅雨の贈りもの

首藤 静夫

 梅雨時は一般に鬱陶しいものであるが、見方によっては味わい深い風情がある。好きなものをいくつか挙げる。
 先ず紫陽花。紫陽花ほど雨に似合う花はないだろう。晴天が数日続くとかさかさに乾くのに、一雨来ると見違えるように色濃く、艶っぽくなる。青、紫、赤の微妙なバリエーションは見事である。夜道で、背丈ほどある紫陽花の大きな花が雨に揺れていると、おいでおいでと誘われている錯覚に陥る。
 次いで立葵。花葵ともいう。この花は晴天下でも素晴らしいが、雨上りの夕陽に湿った光を浴びて輝いているのは一段と風情がある。近くの道の脇に7、8本立ち並んで咲いている。赤い、丸い花びらが高い、低いを繰り返しながら横に広がっている。これが音符に見える。採譜できたら、いいメロディを奏でているのではと空想したりする。

 生り物では枇杷だ。完熟した独特の黄褐色の実が雨に光っている様が好きだ。生り物は枇杷を含めて大抵袋を被せてあるので、立ち木に立派な実を拝むことはない。しかし、側道に独り生えのように実っている小振りの枇杷もなかなかに可愛らしい。
 次いで梅。梅雨と書くくらいこの時季の定番だ。真っ青な実はやや寒々しいが、少し赤く色づく梅雨時は雨によく似合っている。老木がいまだに実をつけているのは痛々しい感じもするが、太い枝が雨を受け、小さな実を庇うかのように広がっているのは見応えがある。

 梅雨の魚の代表はイサキだろう。他の時季にはお勧めしにくい、独特の味がする魚だ。この会でも何度か紹介され、刺身が旨かったとの報告もあったが、やはり焼き魚が一番ではないか。脂の乗ったこの時季ならではの味わいだ。
 鰯。梅雨鰯とか入梅鰯といわれ今が最高だと聞いたが、まだ実感していない。しかし庶民の味方、庶民の味であることは確かだ。
 鰺もこの時期が旨い。昔は獲れすぎて、産地ではバケツ一杯いくらで売られていた鰺もすっかり高値が定着し、庶民の口から遠ざかりつつある。

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