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「800字文学館」

煩悩

内藤 真理子

 三月から本格的に新型コロナによる自粛が始まり不要不急の外出は禁止となった。〝OBペン〟も自粛の対象になったのは痛手だったが、その代わり外出をしない気楽さと、お小遣いが減らない懐の温かさもあった。
 その内〝OBペン〟はZOOMで楽しめるようになり、自粛と言っても私の生活には何ら差しさわりは無いと思っていた。
 ところが六月に入っていよいよ自粛が解禁になった途端、全身のこわばりが気になりだした。ストレスも溜まっているような気がする。
 プールに行きたい。でもコロナに感染したら絶対困る!
 さんざん迷った挙句「エイ!」と、行ってきた。
 解禁になったばかりのプールは空いている。壁を蹴って水中深く潜ると青く澄んだ水がきれい!
 平手で水を掻き水上に顔をあげクロールで泳ぎ出すと、体中が喜びに溢れる。二十五メートルを泳ぎ、ターンをして今度はバックで泳ぐ。
 手で水を掻くとしぶきが飛んできらきら光る。腕を回して体を右に左にローリングすると、全身の凝りが抜けていくのがわかる。
 ああ、この快感! 何事にも代えがたし。煩悩のなせる業か!

 話は変わるが、先日スーパーに行ったら、子供の泣き声が広い店内いっぱいに響き渡っていた。欲しい物を買って貰えない子が駄々をこねているのだろうと、通路ごとに覗くが、子供は沢山いるのに泣いている子が何処にいるのかわからない。
 私が買い物をしている間中、この世にこんなに辛いことはない、とばかりに泣き叫んでいた。買い物も終わり、レジに並んでいたら、泣き声がピタリと止んだ。そちらに目を向けると、三列くらい離れたレジに並び始めた若いお母さんが、乳母車の中から赤ちゃんを抱きあげたのだった。
 人間、生まれ落ちたその時から自己の欲求に忠実なのだろうなぁ。
 あら、これは煩悩の始まり?
 ちなみに、その母親はもう一人の子供を乳母車と自分の間に入れて歩かせていた。きっと放っておいたら、その子も欲求の赴くままに走り回っていたことだろう。
 ああ、無常! 頑張れお母さん!

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