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「800字文学館」

長期政権の歴代首相と安倍首相

清水 勝

 森友問題、桜を観る会、コロナ対応、黒川問題、河井前法相逮捕と安倍内閣を揺るがす問題が続出しており、安倍首相もどことなく元気がない。仮に今年の9月末に辞任したとしても、通算在任日数は3002日となり、憲政史上最長記録となる。

 首相の通算在任日数が2700日を超えるのは、安倍晋三、桂太郎、佐藤栄作、伊藤博文の4人で、いずれも山口県出身か山口県を選挙区とする人物である。4首相が長期政権を維持した背景や外交課題を視てみよう。  桂首相(在任2886日)は、20世紀初めに三度にわたって政権を担い、日英同盟締結、日露戦争、韓国併合など歴史的な局面に対処した。なお、相手の説得を試みる際、しばしば笑顔で背中をたたく動作を見せたことから「ニコポン宰相」と呼ばれ、その効果もあって政権は安定した。
 佐藤首相(在任2798日)は、日韓基本条約批准、沖縄返還をなし遂げ、さらに1967年、「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を表明した。また、世は高度経済成長に邁進し続け、「昭和元禄」を謳歌していた。「人事の佐藤」と呼ばれ、将来の総理候補(注1)を政府・党の要職に就けて競わせ、育成する人心掌握術で政権の求心力を維持し続けた。なお、1974年にノーベル平和賞を受賞している。
 伊藤首相(在任2720日)は、松下村塾出身で幕末・維新に活躍し、初代・第五代・第七代・第十代の内閣総理大臣を務めた。外交では日清戦争の勝利と日清講和条約の調印がある。なお、1909年、韓国統監を辞任後の10月26日、ハルビン駅で安重根に暗殺された。

 安倍首相の長期政権が続いているのは、アベノミクスに表される経済の安定がある。それに加え、後継者不在、野党の弱さ、そして政権維持に向けての強力な「官邸主導」による安倍一強の構築も影響している。
但し、最長期政権にも拘わらず、外交上では他の長期政権の首相と比べ、成果が出せず(注2)、安倍首相も残念に思っていることだろう。

(注1)佐藤首相が将来の総理候補として競わせ、育成した人物
田中角栄、福田赳夫、大平正芳、中曽根康弘、鈴木善幸、宮澤喜一、竹下登

(注2)安倍内閣が推進すべきであろう外交課題
トランプ大統領とはいい関係だが、日ロ平和条約の締結には進展が見いだせず、中国や韓国との関係も微妙である。とりわけ拉致問題は何ら具体的成果が得られていない。

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