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「800字文学館」

『愛の不時着』から見た北朝鮮

大津 隆文

 最近評判の韓国ドラマ『愛の不時着』を見た。韓国の財閥令嬢がパラセールで北朝鮮に不時着、北朝鮮の青年将校と恋に陥る話だ。敵の追撃に手に汗を握り、二人の想いの深さに目頭が熱くなる内容だった。舞台の大部分が北朝鮮なのでその実情もうかがえ興味深かった。

 まず驚いたのは電力不足の深刻さだ。日常的に停電があり、家の中で自転車を漕いで明りを点けたり、ビルのエレベーターが途中で止まったりする。印象的だったのは、開城から平壌へ向かう列車が停電で十数時間立ち往生する場面だ。待ってましたとばかりに近くの住民が飲み物や弁当、歯ブラシや水を売りに来る。乗客は汽車から降りて焚き火を囲み枯れ草の上で野宿する。なお、特別な邸宅等へは送電線が別になっていて停電はしない仕組みのようだ。
 庶民はたくましく生きている。舞台の一つが開城近くの軍人が居住する村落だが、近くにマーケットがあり日用品は何でも手に入るようだ。品揃えは豊富で、商品棚の下には人気の高い韓国の化粧品なども隠されている。どうやって持ち込むのだろうか。
 さらに、商品の代金やタクシー代に一ドル札が拒否反応もなく使われているのは驚きだった。ドル札はどこから入ったのだろうか。
 独裁体制だけに高位権力者の影響力は圧倒的だ。人間関係も上下関係が軸で、忖度が極めて重要なようだ。父親が党の総政治局長との設定で、男性主人公が危機一髪で救われたり、海外派遣選手団に彼女を追加できるのも違和感がない。統制国家というイメージ通り、日常的に盗聴が横行し、抜き打ちで在宅者検査が行われたりする。
 反面、韓国も職場の上下関係は苛烈で、プライバシーもネットで容易に把握される現実が描かれている。
 北朝鮮の庶民の人情は厚く、互助精神が強い。村落の主婦達は始終食べ物を持ち寄り助け合って暮らしている。他方、女性主人公の財閥一家は財産を巡り醜い争いを繰り広げている。富だけ権力だけでは幸せになれない、やはり愛だ、ということだろうか。

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