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「800字文学館」

インテル入ってる

稲宮 健一

 インテル入ってるは同社の有名なキャッチ・フレーズだ。パロアルトに住んでいた頃インテル社に見学で訪れた。二十年も前だが、入口正面に日本の電卓が飾ってあった。当時より前、卓上計算機は便利であるが、大型で高価な商品だったが、これに集積回路を使い小型化とコストダウンの激しい競争が業界を賑わせた。シャープ、キャノン、カシオが競い、今の電卓は使い捨てになるほど手軽に買える品物になっている。
 なぜインテル社が日本の電卓を正面玄関に飾ったか。電卓の頭脳である集積回路は総てインテル社が各社に納入していた。世界で電卓が売れると、黙っていてもインテル社に金が転がり込む。この資金が世界中のパソコンの頭脳を担うICチップCPUを資金面で育てた。

 トランジスターはベル研のショックレーが原理を発明し、ソニーの井深大が実験室レベルから商品化を達成し、TI社のキルビーとFC社のノイスが集積回路特許を取得し、最初の枠組みができた。高度成長期には破竹の勢いで、集積化、微細化が進み日の丸半導体は世界市場を席巻した。しかるに現在の日本の位置は、演算の頭脳部であるCPUはインテル、メモリは韓国、台湾の後塵を被る凋落である。数でさばけるメモリは国際商品になり価格の上下が激しく、微細化の投資を躊躇したり、投資のタイミングによっては長期では必ず大幅な黒字が見込めるが、短期に膨大な赤字に落ち込むことがある。このリスクに日本勢は打ち勝てなかった。国内の多くのメーカが集約され、官の力を借り失地挽回を図ったが、新興国の新興財閥の豊富な資金と決断の速さについていけなかった。
 今は変わってきていると思うが、就社で登り詰めた経営者に軽薄短小産業の半導体、文字と知識からなるソフトウエア、通信の規格を争う5Gに対して長い将来を見込んで果敢に挑戦する気概がないようだ。私の馴染みの分野では戦前ヤギアンテナを見て、レーダの将来を描けなかった海軍は太平洋で大やけどを負った。

TI社:テキサス・インスツルメント社
FC社:フェアーチャイルド社

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