RとL
現役時代、英語を道具にしていた相当な英語の達人でも、日本語を母語としてしまった宿命でRとLの聞き取りと発音は難しいものらしい。
学生時代に聞いた、化学で留学したことのある先生方の、口を揃えてのエピソードは、英語、独語ネイティブに「CHLOROFORMと言ってみろ」と言われた話で、日本人留学生をからかう定番だったようだ。大昔にはLICEとRICEでのからかいもあったと聞く。
海外へは語学の勉強とは無縁のまま放り出されて野武士のようにその場その場を切り抜けてきた私。今でもRとLは耳では全く区別できないし、舌も口もこんがらがる。
赴任した国の言葉フランス語のRはさらに特別で、喉を開いていわば嗽をするような特殊な発音は日本人には難関と言われる。
住所であったALSACEがLのせいかなかなか通じなかったが、Rはさらに大変で、スーパーのCARREFOURなどは絶望的だった。
しかし、ルイ14世の御前でスピーチするのではあるまいし、と開き直って道が開けた。フランス語のHはサイレントで発音しない、そこに付け入ってR音はいっそフランス語には無いハ行でそれに一寸色をつけて発音するという秘策の発見である。Restaurantなら「へすとほん」、Parisなら「ぱひー」と言ってしまえば「こいつ、ひどい訛りだな」と思われたであろうが、判ってはもらえた。
そもそも、アルザスのフランス語は訛っていると言われている。英国人である「ジャッカルの日」の主人公がド・ゴールの暗殺を請け負ってフランス人に化けた時、そのフランス語の不自然さをごまかすために偽身分証明書の出生地をコルマールにしていた。アルザスならフランス語も訛っていて上等なのである。
逆に、私の勤務先名もファーストネームもRで始まるのでフランス人の発音に「そうじゃない、そこは日本語なんだから日本語で発音しろ」と駄目出ししたものである。しかし、彼らはLに切り替えて簡単に私を騙していたに違いない。
同僚に平原(HIRAHARA)というのがいて、これはフランス人をてこずらせた。