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「800字文学館」

文章の作法

野瀬 隆平

 手元に一つのメモがある。
 およそ十年前、属しているクラブで講師を招いて話を聴いたことがある。その要点をまとめたのがこのメモである。
 文章を書くことが、クラブの活動分野の一つにある。より良い文章が作れるよう、各自が書いた作品を持ち寄って、お互いに批評しあう勉強会を行っている。それに関連して、作文に役立つような何か良い話が専門家から聴けないかと、出版社で長年にわたり編集の仕事をしてきた人に講師をお願いした。

 メモには、こう書いてある。
 他人に読んでもらう文章を書くときに、留意しなければならない点として、次の四つがあるという。

  1. 自己本位で読み手を無視し、自己満足に陥っていないか。
  2. 話の本質とは別に、自分の調べたことや経験を延々と述べていないか。
  3. 最後のきめ台詞に酔って、無理に話をそこに持って行っていないか。
  4. テーマに新鮮味が無く、他人の書いたものの良いとこ取りをしていないか。

 この話しを聴いたのは、文章を書き始めて十年以上たってからであるが、自分がそれまでに犯していた過ちを、ズバリと指摘されたような気がした。
 それから、さらに十年が過ぎた。これまでに書き溜めた雑文は三百編を超えているが、読み返してみると未だに同じミスを重ねているのがわかる。

 このメモを思い出したきっかけは、つい先日、「芥川賞」と「直木賞」の受賞者の報道に接したことである。文芸春秋社の創業者であり、この二つの賞を創設したのは、言うまでもなく菊池 寛であるが、その孫である菊池夏樹氏が、実はこのときの講師だったのである。

 さらにメモには、文章を書く時に守るべき事として、次の三つが書きとめてあった。

  1. テーマが明確であること。
  2. 登場人物が魅力的であること。(感情移入ができる。)
  3. 説明調に陥っていないこと。

 正に、随筆や掌編小説などを書く時に注意すべき点であろう。たまにでも良い、このメモを読み返してから作文に取り組むようにしたい。

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