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「800字文学館」

あっと言う間の朝ごはん!

内藤 真理子

 十年来、朝はパンと決めていた。特に夫が退職してからは、朝はパンとサラダ、ブルーベリーとヨーグルト、それに紅茶。ゆっくり、のんびり、ダラダラ時間をかけてとっていた。

 だが、お米がちっとも減らない。毎年、新米の時期に玄米を三十キロ買って一年かけて食べるのだが、孫が学校に行くようになり、来る回数がめっきり減った。友人を招くこともない。新米が届くまでに後二ヶ月しかない。米は半分以上残っている。
 と言うわけで朝はごはんにすることにした。
 和食にしてみると思いのほか支度が簡単なことに気が付いた。ご飯はタイマーをセットして炊いたり、冷凍にしたものをチンしたりと、手間がかからない。味噌汁はだしの素という便利なものがある。具には、豆腐、なめこ、茄子、油揚げ、ワカメ、大根、エトセトラ、何でもござれ、どれも火の通りが良く、あっという間に出来てしまう。
 味噌汁作りの横で、鍋に卵を入れお湯を沸かし沸騰直前に取り出して半熟卵にしたものを大きめの器に移す。カップに入った納豆は器を汚さないので最高! せめて蓋を開けて調味料と葱を入れてたっぷり粘りが出るほどかき混ぜておく。常備菜の佃煮や沢庵を並べたら準備万端。トータルで三十分とはかからない。
 さて、食べる段になると、これもあっという間に終わってしまう。何といっても味噌汁は汁物だから、胃の中にスルッと入る。
 半熟の卵に醬油を落とし崩しておく。そこにねばねばの納豆をバサッと入れてぐしゃぐしゃに混ぜる。その上にご飯を入れ、更に徹底的にかき混ぜる。
 若い頃は、白いご飯は白いまま、納豆は混ぜたものを単独に、いわば美しいものは美しいままの状態で食べていた。
 だが今は違う。一色単に混ぜ合わさったものの上に、佃煮や沢庵、漬物を載せて、あっという間に掻っこみ、
「あ~、お腹いっぱい!」。かくして十分で終了。

「なーおまえ、食べ物はじっくりと味わって食べなされ」の天の声。
「ははーっ、ごもっとも!」

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