感察
真夜中に何気なくテレビを点けてみたら、ある盲学校の理科の授業風景をやっていた。中学1年生10名くらいのクラスである。
校庭の樹木の元に連れて行き名前は知らせずに葉っぱに触らせる。春のことで、葉っぱが世代交代中のクスノキ、花の終わったサクラ、ツバキ、花の盛りのツツジ、蕾を持ったアジサイなど。未知の世界で生徒たちは先生の助言に従い、学者さながら徹底的に観察(感察)する。ほおずりもし、時には口に入れる。ツツジの花のお尻を舐めて「甘い」と驚く表情は発見の喜びに輝いている。
観察を何度か繰り返しての仕上げ段階は命名で、付けた名前を他教科の晴眼者の先生に当てさせるクイズ大会。葉の大きさ、形、縁の様子、葉柄の付き方、匂いなどの観察の結果から付けた十文字くらいの名前は先生たちも理解でき、正解続出であった。
動物園の協力で頭蓋骨から何の動物のものか当てるという授業。亊前に教室でコヨーテの頭蓋骨を観察ならぬ感察するという予習をしてきている。弱視と全盲の子がペアになって、それぞれ異なる頭蓋骨に挑戦する。カメラが追うペアの担当はとにかく巨大。牙の骨への取りつけがコヨーテのように頑丈でないこと、上下の臼歯がハサミ状でなく噛み合わさること、眼窩が上を向いていること、などから水中に暮らす巨大な草食動物カバと結論する。その推論過程は見ていて気持ちが良いほどであった。
私が最も感動したのは、養蚕農家の子の私自身が小学校の夏休み自由研究で市長賞を頂いたこともある蚕の観察で、授業はなんと卵と孵化したばかりの毛蚕(けご)に触らせるところから始まる。養蚕農家では毛蚕のうちはカビや感染防止のため素手では触らないので、私でさえ毛蚕には触ったことが無い。子供たちの微妙な指先は2mmほどの毛蚕を撫でて毛を感じとる。蚕の観察は約1か月半続き、蛾になっての交尾まで続く。私は5齢4眠の幼虫時代の2齢から繭作りまでしか知らない。彼らの仲間に入れて貰いたかった。