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「800字文学館」

将棋棋士、藤井聡太

斉藤 征雄

 将棋の藤井聡太が王位戦を制して、既に獲得している棋聖と合わせて二冠とした。18歳1カ月での記録は歴代最年少ということである。
 将棋のことはよくわからないものの、すごいことだと思う。これまでの連勝記録をはじめ、数々の記録を塗り替えてきた実績を見れば、門外漢にも怪物振りがわかる。おそらく才能に恵まれ、そしてその才能を生かす努力を積み重ねてきた結果なのだろう。終了後の会見で、新たな課題も見つかりました、という言葉に衒いはない。
 才能がない上に努力もしないわがヘボ碁とは比ぶべくもないが、それにしても少しは聡太君を見習ったらどうかと、わが身を叱咤したくもなる。

 テレビは、二冠達成をニュース速報で伝えた。コロナ禍で逼塞させられている人びとにとって、これ以上うれしくほっとするニュースはない。出身地の瀬戸市のおばさんがわざわざマスクを外して「故郷の宝だよ」と叫んでいたのも気持ちがわかる。
 一方で同世代の若者が「すげぇ~ 神ってる!」と言ったのが印象に残った。「神がかっている」のを、最近の人は「神ってる」と言うらしい。
 そういえば王位戦が行われたのは、福岡の大濠公園能楽堂の能舞台だった。鏡板に描かれた影向の松の前に和服姿の対戦者が対坐して、厳粛な雰囲気で対戦が始まった映像が流れていたことを思い出した。
 能舞台は、神域である。舞台には、橋掛かりと呼ぶ通路がついているが、演ずる者は俗界から橋掛かりを渡って神域である舞台に入るのである。その舞台で戦いに勝った藤井聡太に神が乗り移っていたとしても不思議はない。

 吹けば飛ぶよな 将棋の駒に
 賭けた命を 笑わば笑え
「王将」の坂田三吉は有名だが、棋士が、勝つか負けるかを将棋の駒に賭けて生きるのは昔も今も変わらない。その人生は、過酷である。
 若くしてその過酷な人生を選んだ藤井聡太、そしてそのスマートな勝ちっぷりに、誰しも驚嘆と憧憬を感じている。挫折してもらいたくないのだ、われわれのためにも。

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