沢口靖子のドラマ

大平　忠

　沢口靖子のドラマをよく見るようになった。これには、きっかけがある。四年前に当地の浜辺で知り合った九十一才のＤさんが教えてくれたのである。「テレビの午後の番組、ＢＳでは、推理もの、警察ものが多いが、なかなか面白いですよ」と。Ｄさんに、お勧めは何か尋ねたところ、横山秀夫の警察もの、沢口靖子の『科捜研の女』などはどうでしょうかとのこと。早速、テレビ欄を探した。
　なるほど、横山秀夫原作のものは面白い。『科捜研の女』も
　これまた気に入ってしまった。主役の沢口靖子は、京都府警・科学捜査研究所の捜査官である。事件の現場で、犯人の痕跡を探し、持ち帰って遺留物の検査をする。美人であることは言うまでもないが、明るく仕事熱心で突っ走り、周囲を慌てさせる。刑事たちの会議でも忖度なく意見を言って煙たがられる。実に面白い。この二年、放送された番組は殆んど見た。
　見ているうちに、沢口靖子が出演している他のシリーズもあることが分かってきた。しかし、何といっても『科捜研の女』が断然上だ。驚いたことに、この番組は二十年以上続き、今年漸く終わったのだという。
　ところで、安倍首相が退陣表明した翌々日三十日の夜に、沢口靖子が国会議員を演じるドラマ『お花の先生』が放映された。華道の家元が、お神輿候補として担ぎ出されたはいいが、弱者を助けようと大暴走して、派閥のボスの不正まで暴いてしまう。最後の場面で、大勢の国会議員を叱咤する台詞がいい。
「国会議員の皆様、あなた方は誰の声を伝えるためにここにいらっしゃるのですか」
　さらに、群がる記者の質問に対して、「観光客は、まず永田町を見て欲しい。この国の一人一人の夢を叶えるための場所ですから」「そうでしょう」とテレビに語りかける沢口靖子の顔がアップとなってドラマは終わる。
　総裁選を巡って国会議員の先生たちは、その夜は、永田町を走り回っていたであろう。今からでもいいから沢口靖子の台詞を聞いて欲しいものである。