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「800字文学館」

警官による黒人殺傷

児玉 寛嗣

 警官による黒人の虐待、発砲事件、それに対する抗議活動が連日のように報道され、アメリカでは大きな問題になっている。発端は5月にミネアポリスで起きた事件だった。白人警官が黒人の首を押さえつけて死に追い込んだのだった。その一部始終が画像としてソーシャル・メディアに公開されたため、全米で抗議活動が沸き起こった。トランプ大統領の抗議デモ弾圧のための軍隊派遣の動きも火に油を注いだ。白人警官による黒人の殺害事件はこれまでもたびたび発生していた。根は深く、抗議行動だけで解決するような問題ではない。

 植民地時代から裕福な白人が黒人奴隷を保有することは当たり前で、初代大統領のワシントンも農園主として300人以上を抱えていたくらいだ。リンカーンによって奴隷解放が宣言され、南北戦争後、黒人は自由の身になったはずだが、綿花などのプランテーションの労働力として土地に縛られていた。南部では白人による黒人の虐待、殺人もかえって横行するようになった。北部の工業化が進むとともに、南部から移住する黒人も増えてきたが、そこでは下等な人種として扱われて隔離され、劣悪な環境のスラム街に住まわされるようになった。教育も満足に受けられず、社会の最下層として何世代にも亘って拡大再生産されてきた。白人の目には黒人社会は犯罪の温床と映った。

 黒人が警官に少しでも反抗的な素振りを見せたりすると「撃たれるのではないか」と反射的に発砲してしまう。すると「警官はけしからん」という批判がソーシャル・メディアなどで拡散。それに呼応して州知事などが白人警官に厳しく当たると、今度は一部の白人が騒ぎ出す。その繰り返しだ。
 警官の採用にあたり、人種的な偏見がないかを調べることが必要だろう。さらに、給与を引き上げよい人材を採用すること、教育の徹底も望まれる。
 また、アジア系やヒスパニック系を警官に多く登用するのも手かもしれない。問題の根底には有色人種は蔑視の対象という白人優越主義がある。

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