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「800字文学館」

おほうとう

志村 良知

 甲州人のソウルフードほうとう、今でこそ小洒落て能書きと共にドライブインなどで出てくるがその実態について語ろうと思う。
 ほうとうは典型的な家庭料理で、地域により、家により,バリエーションがあってこれがほうとうだという決定版は無い。あえて定義すると
①薄力小麦粉を捏ねて寝かさずその場で麺にする。
②汁は味噌味
③麺は生のまま汁に投入して煮込む
の三点が揃っていればほうとうと呼んでよいであろう。

 高校を卒業して家を出るまでの間、婆様、おふくろ様の手で、毎晩とは言わないが相当な頻度でほうとうが作られ供された。その頻度の大きな理由は「こめかべえ=米庇い=米の節約」である。米は換金できるのでギリギリの量を残して売り、その分麦を食う。田んぼは二毛作が可能なので裏作としてほうとうに必要な小麦と、麦飯のための大麦が作られた。これらは農協の加工場で最終食品形態まで加工してもらった。
 裏作で穫れた小麦の粉は「内っ粉」と呼んで、味と香りが市販のメリケン粉より格段に優れた粉とされていた。「内っ粉」は手土産や贈答品にもされた。

 ほうとうの調理は手早い。大抵はおふくろ様が野良から帰ってその手で粉から製造が開始される。瀬戸物の大きな捏ね鉢で水だけで形がとれる程度に捏ね、適当にちぎって手回し製麺機にかけて平たく延ばす。次にギヤを回転刃の方に切り替えて麺にする。くっつき防止で延ばす時からかなりの量の粉をまぶすが、麺にしたら直ちに煮立っているみそ汁に粉ごと投入する。みそ汁の実は南瓜を最高とするが何でもよい。できあがりは粘りのある熱々の味噌汁に柔らかい歯触りの麺。これをおかずに麦飯を食う、晩は冷や飯なので汁掛けならぬ、飯をほうとうのお椀に入れる「えれめし」という食い方もあった。その晩に余ったら翌日温め直す。どろどろに粘り気が増し練れた「ねばりぼうとう」である。漉し餡の汁でモチの代わりに麺という「こなぼうとう」などというバリエーションもあった。

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